専門家コラム
2022年2月に厚生労働省より「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が公開され、2024年2月には、東京都が全国で初となる「カスタマーハラスメント防止条例」制定に向けて動き出し、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)に関する注目度は日々高まっています。株式会社TMJでも、当社クライアントをはじめ多くの企業から、カスハラ対策について「参考になる情報はないか」とお問い合わせをいただくようになりました。本コラムではコンタクトセンター運営で培った知見から、カスハラとは、カスハラとクレームの違い、カスハラの判断基準と対応例、企業として準備すべきことを解説します。
コンタクトセンター運営の立場で知見を体系化<カスタマーハラスメント対策研修サービス>
カスハラとは
厚生労働省では、カスハラを以下のように定義しています。
「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により労働者の就業環境が害されるもの」
【引用】 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(厚生労働省)
昨今、カスハラが社会課題としても注目されるに従い、カスハラ対応方針を公表する企業も増えてきました。しかし、方針といっても業種・業態で顧客に提供するサービスが異なるため、各社、各団体にて個別に検討する必要があります。
カスハラ方針を策定し表明することは、従業員の心身の安全確保を重視するという企業姿勢を示すことになり、従業員も安心して顧客対応に当たれるようになります(労働契約法第5条「安全配慮義務」)。
一方で、顧客は言うまでもなく企業にとって大切な存在であるため、顧客からの正当なクレームを安易に「カスハラ」と決めつけて間違った対応をすることは、絶対に避けなければなりません。
従業員保護は企業の義務であり、顧客エンゲージメントは企業の生命線です。どちらかに偏ることなく、両立させることが企業のカスハラ対策には求められます。
数字で見るカスハラの現状
(出典:厚生労働省 令和5年度調査 令和5年度報告書よりTMJにて作成)
厚生労働省の調査によると、カスハラに関する相談の有無について業種別にみると、対象とする顧客層が広い業種ほど「相談がある」割合が高く、上位に来ていることがわかります。
しかし、難クレーム、重クレームと呼ばれるものは以前からあり、すでに専用の対応方針が定められている企業もあるため、カスハラに関する相談とは認識していないケースもあるかもしれません。
カスハラを行う顧客の傾向
UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)が2020年に実施したアンケートによると、迷惑行為をした顧客の性別は、「男性が74.8%」で、顧客の推定年齢は「50代以上が70.3%」を占めるという結果が出ています。
(出典:UAゼンセン カスタマーハラスメント実態調査よりTMJにて作成)
さらに、同じくUAゼンセンが2024年に実施した「カスタマーハラスメント実態調査」によると、迷惑行為のきっかけとなった具体的な理由は、「顧客の不満のはけ口・嫌がらせ」「消費者の勘違い」「わからない」が合わせて59.1%を占めています。
カスハラが起こる社会背景
カスハラは属人的な要因が強いという見方もありますが、社会背景も影響しているのではないかとの一つの仮説を立てました。
これまでの社会経験の中で「顧客第一主義」「おもてなし」「CX-LTV」などの価値観を形成し、さらに一消費者・ユーザーとして様々なサービスを利用してきた結果、期待値を大きく下回る経験をした際に、その反動からカスハラという言動に転じるのではないかという考えです。
なぜカスハラ対策が必要なのか?
「カスハラの応対は新人スタッフでは難しいから、ベテランにお願いしよう」というような体制を取っている企業も多いのではないでしょうか?
難クレームやカスハラへの応対経験が十分にあったとしても、精神的なダメージを受けるのは間違いありません。企業側もしっかりとした対策を講じなければ、従業員への安全配慮義務違反として、法律的に訴えられる可能性もあります。
また、企業やブランドのイメージ低下や、信頼してくださっていた顧客が離反することにもつながります。
カスハラへの対策をすることは、従業員の離職防止や心理的負担の軽減、従業員エンゲージメントの向上といった効果のみではなく、業務パフォーマンスの向上による生産性向上も期待できるでしょう。顧客にとっても、よいサービスを継続して得られCX向上にも貢献できるなど、メリットはたくさんあります。
カスハラとクレームの違い
カスハラとは、端的にいうと、要求を伴わない嫌がらせと言えます。また、要求があった場合でも、その要求手段や態様により、労働者の就業環境が害された場合はカスハラに該当します。
クレームとは、自社の商品やサービスに不満を持ったお客様の具体的な表現を指します。不満、苦情、消費者としての当然の権利の主張・要求が含まれます。
例えば、商品やサービスに過失があった場合、それを消費者の権利として主張・要求するのは、正当なクレームと言えます。しかし、その主張の仕方に脅迫、人格否定、差別的言動などが含まれていたり、要求が社会通念と照らしてふさわしくないものは不当なクレームと言えます。
冒頭でもお伝えしたように、「暴言を言われた。これはカスハラだ」と安易に決めつけるのは危険です。お客様の表現がキツイ印象でも、暴言ではないこともあります。また、静かに申し出るカスハラもあるため、しっかりとした見極めが重要です。
(出典:日本加除出版 カスハラ対策実務マニュアルよりTMJにて作成)
カスハラの判断基準
厚生労働省が定めている基準に照らしてご紹介します。
1.顧客等の要求内容に妥当性はあるか
クレームは、消費者としての当然の権利の主張や要求であることもあるため、その内容が妥当か否かがポイントとなります。
2.要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲か
どのような手段や態様でクレームを言ってくるかも判断基準の一つとなります。例えば、長時間に及ぶクレーム、暴力的、威圧的な言動、差別的、性的な言動など、社会通念と照らして相当な範囲を超える場合は要注意です。
株式会社TMJで提供しているカスハラ研修<概念理解編>では、社会通念と照らして相当な範囲を超えるとはどのようなものを指すのか、その際にどのように対応すべきかを提示いたします。
企業として準備すべきこと
カスハラ対策として企業が準備すべきことを5つご紹介します。
① 企業としての基本方針・基本姿勢の明確化
厚生労働省のマニュアルでも、基本方針に含める要素例は出ていますが、業種・業態によって定め方は様々です。すでにカスハラ対応方針を定められている企業でも、顧客接点を担う部署で方針を定め、それを会社方針として承認するボトムアップ型で作成されたり、トップダウンで方針を定めて、関連部署がマニュアルに落としていくなど、進め方も様々です。
② カスハラマニュアルの作成
顧客対応マニュアルの作り方や運用方法は企業によって異なるので、現場の状況に合わせた作成が求められます。コンタクトセンターの運営実績がある企業であれば、難クレームの対応マニュアルやノウハウは蓄積されているのではないでしょうか。それらを自社のカスハラの定義をもとに再整理し、明確なカスハラの事例を追加してマニュアルを作成していくことは方法の一つです。
③ 相談体制の整備
厚生労働省の令和5年度調査によると、カスハラを受けた後の行動として、社内の上司に相談したが38.2%、何もしなかったが35.2%という結果がでています。この、「何もしなかった」というのは、「誰に相談していいかわからない」「相談しても変わらない」「相談してもよいのかわからない」など、周知しても行き届いていない可能性、この人になら話せるという心理的安全性の確保など、さまざまな要素が含まれているのではないかと考えます。カスハラを受けた従業員が気軽に相談できる窓口の設定やその周知、組織内での担当部署の設置など、従業員が安心して相談できる体制や連携の仕組みなどの整備はとても重要です。
④ メンタル不調への相談対応
カスハラ対応は精神的ダメージが少なからず伴います。また、ダメージの受け方は人によって異なります。メンタル不調の可能性を見つけるポイントや、見つけた際に実施すべき事項、望ましい対応者、情報連携の方法など必要な内容を事前にしっかりと取り決めておくことが大切です。
⑤ 従業員への教育
ここまでご紹介した内容を踏まえてカスハラ対応マニュアルを作成し、それを従業員へ浸透させることはとても重要なポイントです。マニュアルができたとしても、現場ではマニュアルにはない事象が発生したり、複雑で判断に迷うケースは出てきます。そんな時に、原則に立ち返って判断できる基本的な考え方の教育や、相談体制の周知も行いましょう。
TMJが提供する「カスタマーハラスメント対策研修」のご紹介
株式会社TMJでは、経営ビジョンを3つ掲げています。
creating client value
クライアントへのサービス提供を通じて企業の価値と生産性を高める
for the future
個人の豊かで暮らしやすい生活を支えるため、社会の問題や不便を解消する新たな価値を創造する
with your style
ヒトの働き方に寄り添い、応援し、成長を支えることで、多様性のある新しいヒトの未来を志向していく
カスハラ対策も、TMJの経営ビジョンに繋がる取り組みの一つだと捉えています。
「カスタマーハラスメント対策研修」の概要
カスハラは、従来の1対1によるクレーム対応の範疇を超え、企業や組織としての対策やルールが求められます。そのため、TMJでは、企業または組織運営の中でカスハラ対策を策定・実施する方に向けて研修を提供しています。
【カスタマーハラスメント対策研修 プログラム】
- Lesson1 カスハラとは
- Lesson2 カスハラとクレームの違い
- Lesson3 カスハラの判断基準と対応例
- Lesson4 企業として準備すること
本研修では4つのプログラムから、カスハラそのものの理解とその傾向、判断基準などを学びます。具体的にはカスハラの定義や推移の傾向、企業や従業員が受ける影響を学んだ後、よく混同される“クレームとカスハラの違い”を理解します。そのうえで現場で一番悩む“カスハラと認定する判断基準”を事例をもとに解説、最後に顧客応対の現場だけでなく企業全体として対策の必要性と、具体的に準備すべき項目を確認します。
これらの研修プログラムを通じて、自社・自組織のカスハラ方針策定に向けた当事者の認識を合わせ、より実践的で効用性の高い対策運用を目指します。
また、本研修に加え、クライアント企業のカスハラ対応方針策定から具体的なマニュアル作成までを行う「実践編」もご用意しています。自社に合った方針策定やマニュアル作成を伴走しながら実践的にご支援いたします。
ご興味いただける部分がございましたら、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。
カスタマーハラスメント研修についてのお問い合わせは<こちら>
関連するサービス |
---|