専門家コラム
生成AIの急速な発展は、私たちの生活様式を大きく変えつつあり、コールセンター業界もその例外ではありません。従来の定型的な業務が自動化され、より高度なコミュニケーション能力や問題解決能力が求められるようになってきました。この変化に対応するためには、リスキリングが不可欠です。リスキリングは単に新しいスキルを身につけるだけでなく、AI時代に求められる人材へ変革し、業務効率化だけでなく、新たな事業価値向上へと貢献するための重要な取り組みです。
しかし、多くの社員は、この変化に戸惑い、スキルギャップを感じているのが現状です。本記事では、リスキリングの重要性や生成AIの学び方について解説します。
リスキリングが注目を集める背景
昨今「リスキリング」という言葉はよく目にしますが、注目されているきっかけの一つは、2022年のダボス会議において、「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」が発表されたことです。日本国内でも、IT人材の不足が2030年には最大約79万人に拡大すると予測されているため、人材を資本と捉えて企業価値の向上を図る「人的資本経営」に対する注目度が高まっています。このような背景から、DXを遂行するための人への投資の最大の施策としてリスキリングが着目されるようになりました。
実際にリスキリングの市場規模は急速に拡大しており、2024年に「日本の人事部」が実施した調査によると、全企業のうち43%がリスキリング施策を実施しております。70%以上の企業がその効果を実感しています。一方で、中小企業やスタートアップにおけるリスキリング実施率はやや低く、33.2%にとどまっていますが、デジタル人材の育成の重要性が、大企業・中小企業ともに広く認識され始めています。
出典:日本の人事部『企業におけるリスキリング施策の実態調査 (2024年3月版)』
リスキリングの具体例としては、AIやデータ分析、プログラミング、サイバーセキュリティといった分野の知識やスキルを学ぶことで、従来の職種からデジタル関連の職種にシフトすることができます。また、顧客対応を行っていた人が、業務自動化ツールを使ったプロセス改善を担う役割に移るといったケースもリスキリングの一例です。
企業にとっては、新たなスキルを習得した社員がいることで、急速な技術の進化や業界の変化に柔軟に対応でき、社内の人材の強化や生産性向上につながるメリットがあります。
生成AIリスキリングの重要性
リスキリングの中でも特に生成AIリスキリングが現在、非常に注目されております。
生成AIの活用はあらゆる業界で進んでいますが、実際にはその効果を十分に発揮できていない企業も見受けられます。この要因として、社員一人ひとりのAIリテラシーの不足が挙げられます。生成AIが提供する可能性を組織として最大限に活かすためには、まず「リスキリング」が不可欠です。生成AIを活用する基盤として、個人レベルでのスキルと知識の向上が企業全体のAI活用成功に直結します。
出典:「生成AIに関する実態調査2024春」
PwC社の調査結果によると生成AIの活用効果が期待未満だった理由として、「データ品質」と「ユースケース設定」、「社員のAIリテラシー」を上げる企業が多く見られます。
実際、ご相談をいただく企業の多くは生成AIの活用で課題に挙げているのが、データ品質等が原因となる生成AIの精度の低さと生成AIをどこで使えばいいかわからないというユースケースの設定です。
どちらも大きく捉えると社員のAIリテラシーが充分に高まっていないことが原因として考えられると思います。正しくは、どのように使えばいいか分からないということによる入力の質の低さと、それに伴う生成AIの出力の質の低さ、また、どのように使えばよいかというイメージがつかないことにより、結果的に生成AIがあまり使われていないというシーンが多く見られます。
生成AI活用のためのロードマップ
そのため、企業が生成AIを本格的に活用するためには、個人から組織、そして業務の再設計へと進化するロードマップが重要となります。ロードマップに従い、各段階で必要なスキルとリテラシーを育成し、組織全体でのAI活用を実現することが成功への鍵です。
今回は、それぞれの全体の流れと、上の図で示したレベル1について詳しく解説します。
レベル1:個人レベルでの活用
まず、組織に属する個人が生成AIを活用できる状態になることがレベル1となります。
そのために必要になるのが「活用環境の整備」と「リテラシーの向上」です。
まず、活用環境の整備についてですが、ChatGPTをはじめとした生成AIツールは特別な設定等を行うこともなく、ページを開けば、誰でもすぐに使い始めることが可能です。そのため、活用環境を整備し、導入するだけで生成AIなどの最新情報に敏感な社員はすぐに活用をはじめるものと思います。自然に生成AIを使っている人がいる一方で、活用環境の整備や導入を行っていない、ということは大きなリスクを伴っている状況にもなってきました。すでに世の中には生成AIツールが無数に登場しており、その中では個人が気軽に利用できるツールも多く存在しています。そのため、社内で活用環境を整備しなかったとしても各個人がそれぞれのツールを勝手に契約して使ってしまうというリスクが存在します。
生成AIツールによっては、入力した情報が生成AIの学習に利用される場合があります。そのため使うべきツールや利用すべき環境を整備しないまま放置をすると、社員がそれぞれの判断で規約などを把握しないまま機密情報などを入力してしまい、情報流出などを引き起こす可能性があります。
そのため、会社として利用する環境や利用できるツールを明確にし、入力して良い情報や使って良いツールなどのガイドラインを整備することで、社員が意図せずして情報流出を引き起こすリスクを軽減するとともに、会社としてどのように使っていくとよいのかを明言することが重要となります。
次に、活用環境の整備やガイドラインの整備の次に重要になるのがプロンプトを書けるということです。生成AIは日本語を入力するだけで使い始めることができる一方で、書く内容によって出力の内容が大きく左右されるため、どのように文章を入力すればよいのかを理解することが重要になります。プロンプトの書き方を理解していないため、生成AIが要求する内容を出力してくれないという悩みに繋がり、生成AIの活用がうまく促進されないといった課題をよく耳にします。
このような課題を解決し安全かつ適切に生成AIを利社員することをできるようにする、これがレベル1で目指すべきゴールになります。
レベル2:組織レベルでの活用
次のステップでは、生成AIの活用を組織全体に浸透させ、組織の資産としての価値を高めていくことが求められます。この取り組みによって、AI活用に関するアイデアやスキルが個々の社員に留まらず、組織全体で共有・高度化することが可能です。
生成AIツールは特定の業務に特化したツールではありません。活用の幅が広いため「どのように、いつ生成AIを使えば良いのか?」というイメージを具体的につけておかなければ、活用方法が分からないという理由で使われなくなってしまう可能性があります。
その課題を乗り越え、組織全体で生成AIを当たり前に使っている状態にするためには、「この作業はこのプロンプトを使えば効率化できる」というユースケースを社内で蓄積し、共有していくことが重要になります。
まず、プロンプトをより洗練された指示へと進化させ、安定してより良い出力を行うために「プロンプトの高度化」を進め、頻度高く利用することで生成の出力を向上させます。次に、組織としてのナレッジを蓄積し、再利用可能なプロンプトを開発・共有する「プロンプトの組織資産化」が重要な要素となります。さらに、このようなプロンプトで実行できる作業と業務フローを照らし合わせて確認することで、業務プロセスを生成AIありきに組み替えていくなどの「業務改革アイデア出し」が可能になります。
レベル3:業務の再設計
最終的なステップでは、生成AIを用いた業務の再設計へと進みます。この段階では、生成AIが企業の重要な業務プロセスの一部として統合され、長期的な価値を生み出すような取り組みが必要となります。
各現場で「このように生成AIを活用すれば業務が効率化できる」というアイデアが生まれて来ることで、生成AIの活用が組織に広まっていきます。しかし、全社員が当たり前にプロンプトを記入して業務を効率化する状況を実現することは難しい可能性が高いです。そのため、生成AI自体を業務ツールやアプリケーションに組み込むことで全社員がそれに気がつかずとも、生成AIを使っている、という状況を作り出していく必要があります。例えば郵便番号から住所が自動で入力されるように、必要事項を記入してボタンを押せば、自動で文章が生成されるようなイメージです。
そのためにはまず、生成AIが提供するアウトプットの精度や信頼性を検証し、業務に適用するための品質管理を徹底する「精度検証」が重要です。この際には、プロンプトの改善だけではなく業務ツール・業務プロセスの見直しや、生成AIにシステム上で連携する情報の整理なども必要になってきます。また、生成AIの導入効果を具体的に測定し、継続的な改善を促す基盤を築く「投資対効果の測定」も欠かせません。そして、最終的には生成AIを業務フローに統合し、実際の運用環境でその価値を発揮するために、システムの設計と実装を行う「システム実装」を行っていくことで、全社員が当たり前のように生成AIを活用している状態になるのではと感じています。
取り組むべき3つのポイント
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