BPOの基礎知識
新しいAIツールや業務システムを導入したとき、こんな経験はないでしょうか。
「このマニュアルを一通り読んでおいてください」と渡された、数十ページ、時には百ページ近い資料。ユーザーコミュニティを検索しても、欲しい答えにはなかなか辿り着かない。導入時の研修は長いのに、研修後に残るのは「結局、今日の業務で何をどう使えばいいのか分からない」というモヤモヤだけ。
ツールは最新。説明資料も充実している。それなのに、なぜか使いこなせる気がしない。
このとき感じる苛立ちは、「AIが分かりにくいから」でも「使う側の理解力が足りないから」でもありません。
原因はもっとシンプルで、情報が“多すぎるまま、構造化されていない”ことにあります。
情報を増やせば分かりやすくなる、という思い込み
多くのシステム導入やAI活用プロジェクトでは、「情報が足りないと困る」という善意から、資料やマニュアルがどんどん増えていきます。
想定される質問はすべて載せる、例外ケースも漏れなく記載する、後から聞かれないように補足資料を追加する――その結果、分かりやすくするために情報を増やしたはずなのに、かえって分からなくなるという事態が起こります。
人は情報が多くなるほど、「全部確認しなければ判断してはいけない」と感じるようになります。一言で済むはずのポイントが、大量の情報の中に埋もれてしまうのです。
AIツール導入で起きがちな「情報過多」の現実
AIツールや新システム導入の現場では、同じような説明がマニュアル・FAQ・社内資料・コミュニティ投稿に散らばり、どれが最新版なのか分からず、優先順位も示されていない状況が頻発します。
結果として、利用者は「念のため全部見る」行動を取らざるを得ませんが、現実にはすべてを読む時間はありません。
そのため、人によって理解ポイントがバラつき、判断や操作が属人化し、使っているつもりでも効果が出ない状態に陥ります。
実はこれ、日常業務でも同じことが起きている
この構造はAIツール導入に限った話ではありません。
一言で済む話なのに資料一式を渡される、同じ内容のマニュアルが複数存在する、現場ごとに解釈が微妙に違う――こうした状態では、判断が遅くなりブレが生じるのも当然です。
伝えた側は「情報は出した」と思い、受け取った側は「正解が分からない」と悩み、結果として双方にストレスが溜まります。
情報が多いと、責任の所在も曖昧になる
情報過多の環境では、トラブル時に「その情報、どこかに書いてありましたよね?」というやり取りが起こります。
どの資料のどの部分を、どのタイミングで見るべきだったのかが整理されていないため、見落とした側が悪いのか、伝え方が悪かったのかが曖昧になります。
結果として、誰も責任を持てない状態が生まれます。
情報が構造化されていないと、AI活用はむしろ難しくなる
情報が整理されないまま蓄積されると、AIに読み込ませる段階で、同じ意味の情報が複数存在する、判断基準が散在する、正式ルールが分からないといった問題が起きます。
この状態でAIを導入すると期待した精度が出ず、結局、情報整理やルール一本化、判断基準の構造化を後からやり直すことになり、想定以上の工数とコストが発生します。
つまり、今の情報設計の甘さが将来のAI活用を難しくしているのです。
「情報を減らす」という発想の転換
必要なのは情報をただ削ることではありません。判断に必須な情報と、あれば参考になる情報を分けることです。
何を最初に見るべきか、迷ったときに立ち戻る情報は何かを示すだけで、判断スピードと再現性は大きく変わります。
まとめ:新ツールに腹を立てた経験は、見直しのサインかもしれない
AIツールや新システムに腹を立てた経験は、ツール選定ミスではなく、業務や情報の構造が整理されていないことへの違和感です。
情報量、優先順位、取り出しやすさを見直すことは、業務プロセス全体を再設計するBPRにつながり、AIを使える状態にするための土台づくりでもあります。