BPOの基礎知識
「同じ説明をしているのに、すぐに理解する人と、なかなか腑に落ちない人がいる」
──こうした場面に心当たりはないでしょうか。
この違いを、つい「相手の理解力」や「経験不足」の問題として片付けてしまいがちです。確かに、受け手の知識や経験によって理解度に差が出ることはあります。
しかし、同じ説明を聞いても「すんなり納得する人」と「何度聞いてもピンと来ない人」が生まれる理由は、受け手側だけにあるわけではありません。
実は、説明の「構造」や「順番」そのものが、理解度を大きく左右しているケースが少なくないのです。
今回のコラムでは、なぜ同じ内容を伝えているはずなのに理解に差が生まれるのか、その背景にある構造的な要因について考えていきます。
「伝えた」と「伝わった」は違う
ビジネスの現場では、「ちゃんと説明した」「マニュアルに書いてある」という言葉をよく耳にします。
しかし、説明したことと、相手に伝わったことは、必ずしも一致しません。
たとえば、業務手順を説明する場面を想像してみてください。
説明者は
「Aの処理をして、Bを確認して、Cに入力する」
と、手順通りに説明します。説明者にとっては論理的で、過不足のない説明です。
一方、聞き手はどうでしょうか。
そもそも
- なぜこの処理が必要なのか
- Aの処理とは、どの画面のどの操作なのか
といった前提が曖昧なまま、手順だけを聞いていることがあります。
その結果、表面的には手順を覚えられても、「なぜそうするのか」が理解できていないため、イレギュラーが発生した瞬間に判断できなくなります。
説明者の「伝えたつもり」と、聞き手の「受け取った内容」には、常にズレが生じる可能性がある。
このズレを埋めるには、説明の「内容」だけでなく、「構造」そのものを見直す必要があります。
説明の順番が理解を妨げるケース
説明がうまく伝わらない原因として、見落とされがちなのが情報を提示する順番です。
「結論から話す」が、常に正解とは限らない
ビジネスコミュニケーションでは、「結論から話す」ことが推奨される場面が多くあります。
意思決定を求める報告や要点整理では、確かに有効な方法です。
しかし、業務手順の説明や新ルールの周知では、必ずしも最適とは限りません。
たとえば、
「来月から、顧客対応の記録は必ず24時間以内に入力してください」
と結論だけを伝えた場合を考えてみましょう。
聞き手の頭の中には、
- なぜ24時間なのか
- これまでの運用と何が違うのか
- 入力が遅れたらどうなるのか
といった疑問が残ったままです。
疑問を抱えた状態では、説明を聞いても「理解」にはなっても、「納得」には至りません。その結果、ルールが形骸化したり、現場に抵抗感が生まれたりすることがあります。
「詳細から話す」ことの落とし穴
一方で、背景や経緯を丁寧に説明してから結論に至る方法にも注意が必要です。
「前提となる経緯」「関連制度」「他部署との調整内容」──
これらを順に説明していくうちに、聞き手は「結局、何が言いたいのか」を見失ってしまいます。
説明が終わる頃には、冒頭の話を忘れてしまっている、ということも珍しくありません。
大切なのは、「結論から」か「詳細から」かではなく、聞き手が情報を受け取りやすい順番で設計されているかどうかです。
「前提」がズレたまま説明が進む問題
説明が伝わらないもう一つの大きな要因が、説明者と聞き手の前提のズレです。
説明者が無意識に省いてしまう情報
業務に慣れた人ほど、多くの「暗黙の前提」を無意識に飛ばしてしまいます。
たとえば、
「○○システムにログインして」
という一言。
説明者にとっては当然でも、新人や異動者にとっては、
- ○○システムとは何か
- どこからアクセスするのか
- ログイン情報はどこにあるのか
といった情報が不足しています。
説明者の「当たり前」と、聞き手の「未知」のギャップは、説明者自身が最も気づきにくいポイントです。
「わかりました」の罠
さらに厄介なのが、聞き手が「わかりました」と答えていても、実際には理解できていないケースです。
- 質問すると評価が下がる気がする
- 何がわからないのか自分でも整理できていない
こうした状態では、質問そのものが出てきません。
その結果、「伝わったはず」という誤解が生まれ、後になって
「聞いていない」
「そういう意味だとは思わなかった」
といったトラブルが表面化します。
「納得」と「理解」の違い
説明を受けて「理解した」ことと、「納得した」ことは、似ているようで本質的には異なります。
理解:情報として処理できた状態
「AをするとBになる」という因果関係を、頭の中で処理できた状態。
手順を覚えた、ルールを知った、という段階です。
納得:自分ごととして受け入れた状態
一方の「納得」は、
「なぜそうするのか」
「自分にとってどういう意味があるのか」
が腹落ちし、行動の理由として受け入れられている状態です。
業務品質を安定させるために必要なのは、「理解」ではなく「納得」です。
納得していないルールは、「言われたから守っている」だけの状態になり、環境が変われば簡単に崩れます。
説明の構造を見直すとは、単にわかりやすく話すことではありません。
相手が「なぜそうするのか」を自分ごととして受け取れるよう、情報の設計をやり直すことなのです。
まとめ:説明の構造を見直す視点
同じ説明をしているのに、伝わる人と伝わらない人がいる。
その原因は、説明の内容よりも「構造」にあることが少なくありません。
- 聞き手の前提知識を意識できているか
- 情報を提示する順番は適切か
- 「理解」だけでなく「納得」まで設計できているか
これらを見直すことで、「何度説明しても伝わらない」「人によって理解度がばらつく」といった問題は改善できる可能性があります。
とはいえ、説明の構造化は、個人の工夫だけで自然に身につくものではありません。
業務全体を俯瞰し、「誰に・何を・どの順番で伝えるべきか」を設計する取り組みが必要です。