BPOの基礎知識
「うちのチームは、みんな同じ説明をしているはずなのに、なぜか成果にバラつきがある」
──こうした悩みを抱えている管理者は少なくありません。
マニュアルは整備されている。研修も実施している。それでも、担当者によって顧客からの評価が異なったり、ミスの発生率に差が出たりする。「個人の能力差」で片付けたくなりますが、果たして本当にそれだけでしょうか。
実は、この現象の背景には「言葉の再現性」という見落とされがちな問題が潜んでいます。
同じことを説明しているつもりでも、使っている言葉が微妙に異なる。その「微妙な違い」が積み重なり、最終的には大きな品質差として現れる
──今回のコラムでは、この構造について掘り下げていきます。
「同じ説明」は本当に同じか
業務の説明において、多くの組織では「何を伝えるか」は明確に定めています。しかし、「どんな言葉で伝えるか」まで統一している組織は意外と少ないのではないでしょうか。
たとえば、顧客に手続きの流れを説明する場面を考えてみましょう。
Aさんの説明 「まず申請書をご提出いただきます。その後、審査を経て、承認されましたらご連絡いたします」
Bさんの説明 「最初に申請書を出していただいて、こちらで確認してから、大丈夫でしたらお知らせしますね」
内容は同じです。しかし、Aさんは「審査」「承認」というフォーマルな言葉を使い、Bさんは「確認」「大丈夫でしたら」という柔らかい言葉を使っています。
この違いは些細なようで、顧客に与える印象は大きく異なります。Aさんの説明を聞いた顧客は「厳格な審査があるのだな」と感じ、Bさんの説明を聞いた顧客は「形式的な確認程度か」と感じるかもしれません。
同じ手続きに対して、顧客が抱く期待値や緊張感が変わってしまうのです。
言葉の選び方が品質を左右する理由
「言葉なんて、意味が伝わればいいのでは」と思われるかもしれません。しかし、言葉の選び方は、受け手の理解度、納得感、行動に直接影響を与えます。
理解度への影響
専門用語を使えば正確に伝わるとは限りません。顧客が知らない言葉を使えば、内容は正確でも「よくわからなかった」という印象を残します。逆に、噛み砕きすぎると「馬鹿にされている」と感じる人もいます。
納得感への影響
同じ「お断り」でも、「いたしかねます」と「できません」では、受け手の納得感が変わります。言葉の選び方次第で、説明への信頼感や受容度が左右されるのです。
行動への影響
「〜してください」と「〜いただけますか」では、相手の行動を促す強度が異なります。依頼のつもりが命令に聞こえたり、お願いのつもりが他人事に聞こえたりする。言葉の選び方が、顧客の次のアクションを左右することもあります。
コンタクトセンターでは、この「言葉の選び方」が品質指標に直結します。 同じ案内をしているはずなのに、オペレーターによって顧客満足度スコアが異なる
──その原因を掘り下げていくと、使っている言葉の微妙な違いに行き着くことが少なくありません。
「意味は同じ」でも「伝わり方」は違う
この現象は、生成AIへの指示出しを経験したことがある人なら実感しやすいかもしれません。
「わかりやすく書いて」と指示しても、期待通りの出力が得られないことがあります。「平易な言葉で」「専門用語を避けて」「中学生でもわかるように」と言い換えると、ようやく意図に近い文章が出てくる。
人間相手のコミュニケーションでも同じことが起きています。ただし、人間は「察する」能力があるため、多少の言葉の違いは補正されます。しかし、その補正には限界があり、担当者ごとに補正のしかたが異なれば、結果としてバラつきが生じます。
ある電力会社のコールセンターでは、「契約の変更」という説明を担当者ごとにモニタリングしたところ、次のようなバリエーションが見つかったといいます。
- 「契約の変更」
- 「契約内容の見直し」
- 「プランの切り替え」
- 「ご契約の変更手続き」
- 「契約を変える」
すべて同じ意味ですが、顧客によっては「見直し」という言葉に「現在の契約に問題があるのか」と不安を感じたり、「切り替え」という言葉に「元に戻せないのでは」と警戒心を抱いたりします。
言葉の選び方ひとつで、顧客の心理的ハードルが変わり、結果として契約変更率に差が出る
──これは決して珍しいケースではありません。
言葉のバラつきが生まれる組織の特徴
言葉の再現性が低い組織には、いくつかの共通点があります。
「伝えるべき内容」だけがマニュアル化されている
多くのマニュアルは「何を伝えるか」を記載していますが、「どんな言葉で伝えるか」までは規定していません。結果として、担当者は自分なりの言い回しで説明することになり、バラつきが生じます。
「うまい人のやり方」が暗黙知のままになっている
成果を出している担当者がいても、その人がどんな言葉を選んでいるかは明文化されていないことがほとんどです。「あの人は話し方がうまい」という評価で終わり、具体的に何が違うのかが言語化されません。
フィードバックが「印象」にとどまっている
「もう少し丁寧に」「もっとわかりやすく」といったフィードバックは、具体的な言葉の改善にはつながりません。どの言葉をどう変えれば良いのかが示されなければ、担当者は改善のしようがないのです。
コンタクトセンターの品質管理では、こうした課題に対処するために「トークスクリプト」や「ワーディングリスト」といった仕組みを活用します。単に「説明する内容」を定めるだけでなく、「どの場面でどの言葉を使うか」まで標準化することで、品質のバラつきを最小限に抑えているのです。
まとめ:言葉を「資産」として管理する発想
「同じことを説明しているはず」という認識は、意外と脆いものです。伝えるべき内容が同じでも、使う言葉が異なれば、顧客の受け取り方は変わり、結果として品質差につながります。
言葉を個人のセンスや経験に委ねるのではなく、組織の「資産」として管理するという発想が重要です。
具体的には、次のような取り組みが有効です。
- 説明の「型」を言葉レベルで定義する:内容だけでなく、表現も含めて標準化する
- 成果を出している人の言葉遣いを分析する:「何が違うのか」を具体的に言語化する
- フィードバックを具体的な言葉に落とし込む:「この場面ではこの言い方が効果的」と示す
こうした取り組みは、単なる「言葉の統一」ではなく、業務品質の安定化につながるものです。
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