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専門家コラム


初回投稿日 : 2024/12/12

組織レベルで生成AIを活用し、業務を再設計する!

生成AIリスキリングのメリットと取り組みのステップ」では、生成AI活用推進のロードマップとリスキリングの関係性について解説しました。今回は、生成AI活用ステップのレベル2、レベル3に該当する“組織レベルでの生成AI活用”についてと“業務の再設計”について具体的に解説します。

TMJ Generative Solution 人とAIによるハイブリッドコンタクトセンター

組織レベルで生成AIを活用する

前回の「生成AIリスキリングのメリットと取り組みのステップ」では、生成AI活用のロードマップについてご紹介しました。

生成AIリスキリングを通じて、ChatGPTやGeminiに代表されるような対話型UIを持つ生成AIを使いこなす個人が増加した後、企業として次に取り組むべき課題は、レベル2の“組織レベルで生成AIを活用できる”状態に組織を導くことです。従来のシステム導入とは異なり、生成AIの導入における活用の余地や方法は、主に個人の裁量に委ねられます。

そのため、企業には効果的なユースケースや活用のアイデアを収集・蓄積し、全社員が一定基準以上で生成AIを活用できる環境の整備が求められます。この状態を、“組織レベルで生成AIを活用できる状態”と呼びます。

プロンプトの高度化の手法について

組織レベルで生成AIを活用する際に、まず必要になるのが“プロンプトの高度化”です。プロンプトの高度化とは、目的に沿った回答の質が得られるまで、プロンプト自体を改善していくプロセスを指します。この改善活動を進める上で重要なポイントは、以下の2つです。

1点目は、生成AIの活用箇所を正しく特定することです。

当然ながら、改善インパクトが小さい箇所に生成AIを活用しても効果が限定的です。そのため、各部署で日々の業務を棚卸し、業務を可視化したうえで、改善インパクトが大きく、かつ生成AIが得意とする業務を特定し、組織として生成AI活用の適切な箇所を定義していく必要があります。

2点目は、部署単位で「生成AI大使」を育成することです。
「生成AI大使」とは、組織内で生成AIの積極活用を推進するために、啓蒙活動やプロンプトの改善提案を行う、“生成AIの専門的知識を持つ人材”を指します。このような人材を各部署内で育成することで、各部門の特性に応じたプロンプトの微調整が可能となり、結果として、望む回答を引き出すプロンプトの構築が可能です。

上記の2点を実施することで、部門単位で効果的な活用箇所を明確にし、望む回答精度を実現するプロンプトが作成できます。

プロンプトの組織資産化と業務改革アイデアの創出方法について

プロンプトの高度化を行った次のステップでは、プロンプトの組織資産化が求められます。ここでいう資産化とは、各部署で生み出されたプロンプトを全社員がアクセス可能な形で共有し、コピー&ペーストを行うだけで入力可能な状態にすることを指します。この仕組みを構築することで、以下の効果が期待されます:

  • 新たにプロンプトを一から作成する工数の削減
  • 生成AIに関心がない社員でも簡単に活用できる環境の提供

結果的に、生成AIの利用率を向上させることが可能になります。さらに、全社員が高度化されたプロンプトを業務で活用することで、組織全体の生産性や業務の付加価値を向上させることが実現できます。

(参照元:日清食品グループ 生成AI活用の取り組み)

一方で、対話型生成AIによる業務効率化の範囲は、全体業務の30%程度に留まると言われています。そのため、さらなる効率化を目指すには、生成AIの機能を活用した新たなアプリケーションの開発や、既存システムとの連携を進めて、より広範囲の業務を改善していくことが企業に求められます。

(参照元:【独自調査】生成AI活用、プロンプトだけで対応できる業務は34%)

ここで求められるのが、業務改革アイデアの創出です。どのシステムにも共通する課題ですが、導入したシステムが実際の運用で利用されなければ、その価値を発揮することはできません。そのため、日々現場で業務に取り組む社員から、ボトムアップで業務改革を進める上で欠かせないアイデアを募り、開発余地を検討していく必要があります。

次章では、レベル3の業務の再設計について具体的に解説をしていきます。

業務の再設計について

業務の再設計とは、生成AIを前提として業務プロセスを変更することを指します。具体的な事例として、サイバーエージェント社がリリースした「サイスケ(Cyber AI Schdular)」という日程調整AIがあります。

(参照元:月間20万件の予定調整を即時化する「サイスケ(Cyber AI Scheduler)」を自社開発・全社導入開始)

このツールはSlack上で操作可能であり、特定のメンバーとの日程調整を自然言語で依頼するだけで、AIが自動でスケジュール調整を行います。背後にはカレンダーアプリとAzure OpenAI Serviceが連携しており、AIが自然言語を理解した上で、データベースから空き日程候補を特定します。そして、候補日を人間に提示し、クリック一つで予定の設定が可能になる仕組みです。

従来の日程調整プロセスでは、以下の3つの工程が発生していました。

  1. 各メンバーが空いている日程をカレンダー上から人間が手動で探す
  2. スケジュール設定を行うための許可を各メンバーから得る
  3. 予定を実際に作成する

このうち、1と3の工程は「サイスケ(Cyber AI Schdular)」が代替し、人間が対応するのは2の工程のみとなります。これにより、作業時間が大幅に削減され、業務効率の向上が実現しました。

このように、業務プロセスにおける生成AIの適用可能な領域を特定し、それをAIに置き換えることで、生成AIを前提とした業務プロセスの再設計が可能になります。

精度検証の具体的な手法からシステム実装までのプロセスについて

業務の再設計において、最初に行うべきことは精度検証です。
生成AIの特性上、回答の精度を100%担保することは不可能です。そのため、実装したいシステムが自社の求める回答精度を満たしているかどうか、事前に検証する必要があります。

精度検証の実施可否を判断する軸は以下の通りです。

  1. 正解データが存在するか
    生成AIに何を「正解」とするべきかを教える材料が必要。具体的には、ラベル付きデータや回答例などを指す。
  1. 学習データの網羅性
    対象となるタスクや利用ケースを全てカバーしている必要がある。
  1. テスト検証データの汎用性
    生成AIモデルの学習データと検証用データのデータ構造や性質に大きな違いがないことを指す。
  1. データ整備
    そもそもデータが使用可能か否か。
  1. 精度基準算出基準の策定
    あらかじめ何を元に「合格」と判断すべきかを定める。
  1. 精度検証を通した処理基準の言語化
    精度検証の結果次第で、「人間が対応する所」と「生成AIが対応すべき所」を言語化。
  1. 使用するモデルの技術水準
    精度向上に向けて複数のモデルの強みを活かせるか否か。
  1. 技術的精度向上の可能性
    技術的手法や工夫を施すことで得られる向上の余地が予めどこまであるか。

 

精度が問題なく担保できると判断された場合は、次にシステム実装に向けた予算の取得に進みます。この段階では、生成AIを前提とした業務プロセスとなった際に、以下の項目を評価・試算します。

  1. 経営KPIの改善効果
    生成AIを導入することで、経営KPIにどのような改善効果がもたらされるかを数値化。
  2. 費用削減効果と売上増加の見込み
    コストの削減幅や売上の増加額を試算し、それに基づいてどの程度の予算をシステム実装に配分できるかを検討。

次に、具体的な実装フェーズに進みます。実装に際しては、最終的に開発環境をどのように構築するかを決定することが重要です。例えば次のような選択肢が挙げられます。

  1. Slack、Teams、Chromeなどの既存のプラットフォームを活用する
  2. 独自に0からデスクトップアプリケーションを開発する

これらの選択肢を含め、多面的な議論を重ねた上で、最終的にシステムの実装を進めることが可能となります。

終わりに

今回の記事では、レベル2(組織レベルで生成AIを活用する)からレベル3(業務プロセスの再設計)における考え方と具体的な手法について解説しました。生成AIは導入して終わりではなく、活用によってその効果を最大限に発揮させることが重要です。

生成AIは、各個人の利用判断に委ねられる場面が多いため、活用レベルの均質化を図る必要があります。そのためには、業務で利用可能なプロンプトを各部署が蓄積・共有し、組織全体での標準化された活用体制を構築することが求められます。しかし、こうした取り組みだけでは、生成AIの持つ業務効率化のポテンシャルを完全に引き出すことはできません。

生成AIを最大限活用するために必要な取り組み:

  1. 各種システムとの連携を進めること
  2. 社内情報や業務プロセスに応じたチューニングを行うこと
  3. 既存の業務プロセスを見直し、生成AIで代替可能な箇所を特定すること

これらのプロセスを進める中で、精度検証が非常に重要となります。生成AIを導入する際、期待される回答精度や業務の成果がどの程度実現可能かを検証する必要があります。そして、精度が問題ないと判断されれば、システムの実装段階に進みます。

実装後は、生成AIを前提とした業務プロセスに再設計することで、さらなる業務効率化が可能になります。

今後、生成AIを効果的に活用できる企業と、十分に活用できない企業との間では、競争力に大きな差が生じると予測されています。本記事が、皆様の生成AI活用に向けた取り組みの一助となれば幸いです。

 

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執筆者紹介

伊藤 優 氏
株式会社サイバーエージェント リスキリング事業 責任者
テーマ:AI、リスキリング
2018年新卒入社。新卒採用部門へと配属。2019年にAI事業本部へと異動し、小売との協業事業立ち上げや広報を担当。2023年より子会社CAリスキリングパートナーズを立ち上げ、代表取締役社長に就任。 子会社の統合に伴い、現在は株式会社AI Shift にてリスキリング事業の責任者を務める。

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