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BPOの基礎知識


初回投稿日 : 2025/11/17

コンタクトセンター品質管理の理想と現実

〜生成AI活用で実現する持続可能な品質向上サイクル〜

「全ての応対を評価し、一人ひとりに適切なフィードバックを行い、継続的に品質を向上させたい」
これは誰もが抱く理想です。しかし現実は、限られた評価者が月に数百件の応対をサンプリング評価するのが精一杯。全体の5〜10%しか見ることができず、重要な問題事案を見逃すリスクと常に隣り合わせです。
このギャップを埋めるために、多くのセンターが試行錯誤を重ねています。評価者を増員したくても予算が限られ、評価基準の統一に苦労し、オペレーターからは「評価が不公平」という声も上がる。そんな状況に心当たりはありませんか?

正しい応対品質管理の3ステップ

応対品質を継続的に向上させるためには、正しいプロセスを確立し、それを着実に実行する必要があります。ここでは、理想的な品質管理を3ステップで解説します。

ステップ1:対象音源の全件確認

応対品質管理の第一歩は、全ての応対を漏れなく確認できる体制を作ることです。

重大なクレームやコンプライアンス違反は、いつどの応対で発生するか予測できません。たとえば、月間20,000件の応対があるセンターで5パーセントのサンプリング評価を実施している場合、確認できるのは1,000件のみです。残り19,000件の中に問題応対が含まれていても、発見する手段がありません。問題が表面化するのは、顧客からのクレームや再問い合わせが発生してからになってしまいます。

全件確認の体制を整えることで、問題の早期発見と予防的な対応が可能になります。

ステップ2:統一基準による評価・解釈

音源を確認するだけでは品質管理として不十分です。次に必要なのは、明確で統一された基準に基づいて応対を評価する仕組みです。

曖昧な評価基準や評価者によって異なる解釈があった場合、オペレーターは「評価者次第で結果が変わる」と感じ、フィードバックを真摯に受け止められません。

たとえば、「適切な敬語の使用」という評価項目で、ある評価者は厳格に誤用を指摘する一方、別の評価者は許容範囲と判断する場合があります。このような評価のばらつきは、オペレーター間で不公平感を生み、評価制度への信頼を失わせます。

統一基準を設定し、全ての評価者が同じ尺度で応対を評価できる仕組みを構築することが、信頼性の高い品質管理には欠かせません。評価項目ごとに具体的な判断基準を定め、評価者間で認識を揃えるためのカリブレーションが必要です。

ステップ3:的確なフィードバックと改善

評価を実施しても、それをオペレーターの成長につなげなければ意味がありません。最後のステップは、評価結果に基づいて的確なフィードバックを行い、具体的な改善行動を促すことです。

フィードバックは単に良し悪しを伝えるだけでなく、なぜその評価になったのか、どこを改善すればよいのかを明確に示す必要があります。抽象的な指摘では、オペレーターは何をどう変えればよいか分からず、同じ問題を繰り返してしまいます。また、フィードバックのタイミングも重要です。応対から時間が経過してからの指摘では、当時の状況を思い出せず、改善につながりにくくなります。

たとえば、「お客様への共感が不足していました」という指摘だけでは不十分です。「応対の冒頭で、お客様が困っている状況に対して共感の言葉を添えることで、より良い印象を与えられます。次回は『ご不便をおかけして申し訳ございません』といった一言を加えてみてください」といった具体的な改善提案が効果的です。

この3つのステップをサイクルとして継続的に回していくことで、品質管理は単なる評価作業ではなく、継続的な改善を生み出す仕組みとして機能します。しかし、この理想的なサイクルを実現するには、大きな壁が立ちはだかります。

理想の品質管理を実現する際の障壁

前述のステップが重要であることは理解していても、実践が困難な最大の理由は工数負担です。人的リソースには限界があり、理想と現実のギャップを埋めることができずにいるのが、多くのコンタクトセンターの実情です。

具体的な工数試算

全件評価を人手で実施する場合、どれほどの工数が必要になるのでしょうか。具体的な数値で見てみましょう。

1件の応対を評価するには、音源の再生時間に加えて、評価シートへの記入やコメント作成の時間が必要です。平均的な応対時間を5分と仮定すると、評価作業を含めて1件あたり約15分を要します。評価者が1日8時間(480分)稼働する場合、1日に評価できる件数は32件です。月間の稼働日数を20日とすると、評価者1名が1カ月で対応できる件数は640件となります。

ここで100席規模のコンタクトセンターを想定してみましょう。オペレーター1名が1日平均20件の応対を行うとすれば、センター全体では1日2,000件、月間40,000件の応対が発生します。これを全件評価するには、評価者が63名必要になる計算です。

評価者の人件費を月額40万円と仮定すれば、月間2,520万円のコストが品質管理だけに発生します。これは現実的な投資額ではありません。このため、多くのセンターは全件評価を諦め、サンプリング評価に頼らざるを得ないのです。

サンプリング評価の限界

工数負担の制約から、多くのコンタクトセンターでは月間応対の5パーセントから10パーセント程度をサンプリングして評価する方式を採用しています。しかし、この方式には重大な限界があります。

まず、サンプリング評価では全体像を把握できません。抽出された一部の応対だけを見て、センター全体の品質を判断することは、統計的な信頼性に欠けます。特に、発生頻度が低いものの重大な影響を及ぼす問題事案は、サンプリングでは発見できない可能性が高くなります。

たとえば、コンプライアンス違反につながる不適切な案内や、顧客の重要な要望を聞き漏らした応対は、全体の中では少数かもしれません。しかし、これらは1件でも発生すれば大きなトラブルに発展します。5パーセントのサンプリングでは、95パーセントの応対は誰も確認していないため、こうした問題を見逃すリスクが常に存在します。

さらに、サンプリング評価はオペレーターに不公平感を生み出します。ある月は自分の応対が複数回抽出されて厳しい評価を受ける一方、別のオペレーターは一度も抽出されずに評価の機会がない、といった状況が発生します。評価される側からすれば、「たまたま選ばれた応対だけで判断される」ことに納得感を持てません。

また、サンプリング評価では改善の機会も限定的です。オペレーター個人の弱点を正確に把握するには、十分なサンプル数が必要ですが、月に数件の評価だけでは傾向を掴むことができません。的確な育成指導を行うには、より多くの応対データが必要です。

評価者のスキル依存問題

品質管理の工数負担は、評価作業だけでなく評価者の育成・管理にも及びます。

評価者には、応対内容を正確に理解し、設定された評価基準に基づいて公平に判断する能力が求められます。商品知識や業務知識の習得に加え、評価の視点やフィードバックの技術を学ぶ必要があるため、新人評価者を一人前に育成するには、通常3カ月から6カ月程度の期間を要します。

評価者を育成しても、人間である以上、評価のばらつきを完全には防げません。ばらつきを最小限に抑えるため、定期的なカリブレーション会議を開催し、評価者間で認識を揃える作業が必要になります。

また、評価者自身のモチベーション維持も課題です。評価業務は単調な作業になりがちで、長期間従事すると集中力が低下したり、評価が甘くなったり厳しくなったりする傾向が見られます。評価の質を一定に保つには、評価者の配置転換や休息を考慮した人員計画も必要です。

正しい品質管理の3ステップを実現するには、これらの工数負担という壁を乗り越える必要があります。従来の人的評価の延長線上では、この課題を解決することは極めて困難です。

品質管理の課題を生成AIで解決

これらの課題を根本的に解決する手段として注目されているのがAI技術の活用です。近年の音声認識技術の飛躍的進歩と自然言語処理の精度向上により、人間の聴取・評価能力を上回る性能を実現できるようになりました。

従来の品質管理が「人手による限定的な評価」という制約から抜け出せなかったのに対し、AI活用型品質管理は「機械による網羅的な評価」を可能にします。これは単なる効率化ではなく、品質管理の概念そのものを変革する技術革新といえるでしょう。

AIシステムの最大の特徴は、疲労せず、感情に左右されることもなく、24時間365日一定の品質で評価を続けられることです。また、膨大なデータから傾向やパターンを瞬時に識別し、人間では見落としがちな微細な変化も確実に捉えます。

AIが「学習し続ける」システムであることも重要です。評価を重ねるごとに精度が向上し、新しい品質基準への適応も迅速に行えます。これにより、品質管理の持続的な改善サイクルが自動的に構築されます。

では、具体的にAI活用型品質管理システムがどのように従来の課題を解決するのか、3つの側面から詳しく見てみましょう。

全件自動評価で工数を1/10に

生成AIによる自動評価の最大のメリットは、人間の処理能力の限界を超越できることです。従来15分かかっていた1件の評価を、AIなら数秒で完了できます。しかも、その精度は熟練評価者と同等以上を維持できます。

音声認識技術により通話内容をテキスト化し、自然言語処理でトーク内容を分析し、設定された評価基準に基づいて自動スコアリングを行います。この一連のプロセスが、人間の評価時間の1/100以下で実行されます。

結果として、評価者1名で月間640件しか処理できなかった従来手法に対し、AIシステムなら同じコストで月間20,000件の全件評価が可能になります。これにより、見逃しリスクを完全に排除しながら、人的工数とコストを大幅に削減できるのです。

統一基準の完全適用で公平性を担保

人間の評価者が抱える根本的な問題は、どんなに訓練を受けても「個人差」と「状態変化」が避けられないことです。同じ音源を聞いても、評価者の経験、その日の体調、前の評価の影響などにより判断が微妙に変わってしまいます。

一方、AIシステムは一度設定した評価基準を機械的に適用し、例外なく全ての応対に同じ基準でスコアリングします。朝一番の評価も、深夜の評価も、1万件目の評価も、全く同じ精度と一貫性を保ちます。これにより、オペレーター間での評価格差や不公平感を完全に解消できます。

また、評価基準の変更や更新も瞬時に全体に反映されます。新しいコンプライアンス要件が追加された場合、人間の評価者なら再教育に時間がかかりますが、AIなら設定変更と同時に全件評価に新基準が適用されます。

個別最適なフィードバックで育成を加速

AIの真価は、単なる評価の自動化にとどまりません。膨大なデータ蓄積と分析により、一人ひとりのオペレーターの特徴、成長パターン、課題を詳細に把握し、個別に最適化されたフィードバックを提供できることです。

例えば、特定のオペレーターが金融商品の説明時に専門用語を多用する傾向があること、クレーム対応時に感情的になりやすいパターン、新規顧客との会話で早口になる癖など、人間の評価者では見落としがちな微細な傾向も確実に捉えます。

さらに、ベストパフォーマーの応対パターンを分析し、その特徴を他のオペレーターの改善指導に活用することも可能です。「このケースでは、トップパフォーマーの田中さんはこのような表現を使っています」といった具体的で実践的なアドバイスを自動生成できます。

これにより、従来の画一的な研修から、一人ひとりの課題と成長段階に合わせたオーダーメイド研修へと進化し、人材育成のスピードと効果を飛躍的に向上させることができるのです。

期待される導入効果とその実現可能性

生成AI活用型品質管理システムの導入により、どのような効果が期待できるのでしょうか。業界での導入事例や技術的な特性を基に、実現可能性の高い改善効果をご紹介します。

中規模センターでの導入効果

100-200席規模で月間2-3万件の応対を処理する金融系コンタクトセンターで、生成AIソリューションを導入したケースです。

導入以前では、5名程度の評価者によるサンプリング評価が主流で、評価カバー率は5%未満。さらに評価者ごとにスコアリングにばらつきも発生していました。

AIを活用した品質管理システムを導入したことで全件評価が実現し、従来見逃していた95%以上の応対についても詳細な分析が可能になりました。評価業務の大幅な効率化により、従来の評価体制を80-90%削減しながらも評価品質は向上し、余剰となったリソースは戦略的な改善活動や人材育成に活用しています。

大規模センターでの期待効果

大規模なコンタクトセンターにおいては、AI活用による効果がさらに顕著に現れる傾向があります。特に定量的な効果測定において、その威力を発揮します。

最も注目すべきはコスト面です。評価工数の大幅削減により、年間数千万円から億単位のコスト削減が期待されます。これは単純な人件費削減だけでなく、評価者の採用・研修・管理に関わる間接コストも含めた総合的な効果です。

品質向上による間接的な効果も見逃せません。AIによる全件評価と即座のフィードバックにより、応対品質の底上げが図られ、顧客からのクレーム件数の削減が期待されます。これは単なる評価の厳格化ではなく、オペレーター一人ひとりのスキル向上が実現された結果といえます。

持続可能な品質管理サイクルの実現へ

生成AI活用により実現できる価値は多岐にわたります。第一に、全件評価による見逃しリスクの完全排除。第二に、90%の工数削減とコスト最適化。第三に、統一基準による公平で一貫した評価により、オペレーターの納得感と動機向上。第四に、個別最適化されたフィードバックによる効率的な人材育成です。

AIの力を活用することで、これまで「理想論」だった品質管理が「現実的な選択肢」に変わります。限られたリソースの中で最大の効果を求められる今、持続可能な品質管理サイクルの構築に向けて、AI活用を検討してみてはいかがでしょうか。

TMJは、AIによる全件自動評価で応対品質を可視化するSaaSサービス「TMJ Conversation Monitorを提供しております。評価ロジックやプロンプトのフルカスタマイズができるため、個社ごとの評価基準に対応させることが可能です。評価基準の実装については、多様な業界の応対メソッドを熟知したQA(品質管理)のプロが、設計・設定・チューニングまで全て対応します。ご興味のある方はお気軽にご相談ください。

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