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専門家コラム


初回投稿日 : 2023/06/13

大規模言語モデル(LLM)とは?コンタクトセンターへの影響と海外の活用事例

LLM(大規模言語モデル)とは

大量データの学習によりさまざまなタスクで優れた能力を発揮する「大規模言語モデル」(LLM)。アメリカのOpenAIが開発した話題のChatGPTは、大規模言語モデルを応用した対話型生成AIで、文章生成や翻訳などを高い精度で実行し世界中を驚かせています。今後、大規模言語モデルの影響力はますます高まり、さまざまな領域に変化を引き起こすと予想されます。今回は、コンタクトセンターにおけるサービス、ソリューションの研究、検討において弊社と協働する株式会社エーアイスクエアの金澤様に、大規模言語モデルの変遷やコンタクトセンターへの影響、海外での活用事例について解説いただきました。

AIと大規模言語モデル(LLM)の変遷

AI進化

人工知能(AI)の歴史は1950年代にスタートしました。2010年頃からAI技術の社会実装における条件が揃ったと言われており、現在は「第3の波」と位置付けられています。AI技術の社会実装に至る条件として以下の3つが挙げられます。

  1. AIアルゴリズムの進化:技術が飛躍的に発展した
  2. InternetやIoTの普及:大量のデータが収集できる環境が整った
  3. クラウドの登場:大量のデータを処理する環境が整った

「第1・2の波」では上記の条件が満たされていませんでしたが、「第3の波」では、深層学習(ディープラーニング)という新たな手法が着目され、社会実装されはじめています。

画像認識分野においては、自動運転やスポーツ中継、製品の不良品チェックなどの領域で既に活用されています。しかしながら、自然言語処理分野においては、チャットボットやAIサイネージの採用が広がる一方、業務の高度化が実現できるほどの効果が見いだせず、社会の期待値と大きくかけ離れていました。

そんな中、大量のパラメータを学習したジェネレーティブAI(生成AI)であるChatGPTが登場し、高い精度を出したことで、自然言語処理分野でもAIが業務高度化に寄与するのではないかと期待されています。

大規模言語モデル(LLM)の登場

大規模言語モデルは、2017年にTransformerという深層学習モデルが登場したところから始まります。Transformerとは、「Attention Is All You Need」という論文で2017年に発表された深層学習モデルです。Transformerの誕生以降、これを活用した新たなモデルが次々と発表されています。

言語モデルの変遷

参考:A Survey of Large Language Models

そんな中、2022年にGPT-3.5モデルを搭載したChatGPTが突然登場しました。開発会社は、イーロン・マスクとサム・アルトマンが2015年に設立したアメリカのOpenAIという会社です。ChatGPT はAI自体の精度もさることながら、UX面でのブレークスルーが広く世間に普及した大きな要因になっており、アクティブユーザー数は2カ月で1億人を超えたと言われています。

大規模言語モデル(LLM)の特徴

Transformerは従来のディープラーニングで当たり前と考えられていたRNN(Recurrent Neural Network)やCNN(Convolutional Neural Network)などを使わずにAttentionだけを利用したモデルで、当時としては画期的な取り組みでした。このTransformerから進化したGPT-3.5は、大規模なテキストデータを事前学習したモデルで、ChatGPTに採用されています。現在では、更に大量の学習データとパラメータ数を与えたGPT-4やPaLMなどのモデルが登場しています。GPT-3.5のパラメータ数は3550億個(初代GPTのパラメータ数は1.17億個)と言われていますが、ChatGPT発表後、Google社やMeta社も大規模言語モデルを発表しており、最近Google社が発表したPaLMはパラメータ数が5,000億個を超えていると言われています。

パラメータ数比較

大規模言語モデル(LLM)の課題

大規模言語モデルは文書や会話などを人間に近い形で生成してくれるため注目されていますが、普及に向けてはまだまだ課題があると言われています。主な課題は3つです。

情報の誤解釈や誤った回答(Hallucination)

大量のデータを学習しているため、人間が意図しない誤解釈をしてしまう可能性があります。また、学習データに含まれていない情報や、誤った情報に基づいて回答を返してしまうことも考えられます。

個人情報の取り扱い

大規模言語モデルに投入されるデータが学習に利用される可能性があり、プライバシーや機密情報が外部に漏洩する可能性があります。ただし現在、MicrosoftのAzure OpenAI Serviceでは、「学習データとして利用しない」という方針を立てています。また、Open AIについてもAPI経由で取得するデータは学習データとして利用しない方針を表明しています。

莫大なコスト

大規模言語モデルは、学習するために膨大な計算が必要であり、莫大なサーバーコストが発生します。学習済みモデルに特定分野のデータを追加学習させて微調整(ファインチューニング)する方法や、学習済みモデルを模倣する「蒸留」という手法を使うことで、学習データと計算量を大幅に減らすことも検討されています。

大規模言語モデル(LLM)がコンタクトセンターに与える影響

大規模言語モデルは、様々な指示に対して、人間らしい回答を生成します。例えば、翻訳、要約、質問応答、文章生成、感情分析、ニュース記事・小説・詩等の作成、文章の分類、文章の言い換え、などは大規模言語モデルの得意領域です。

それではでは、大規模言語モデルがコンタクトセンター業務に与える影響には、どのようなものことがあるでしょうか。せっかくなのでChatGPTの回答を見てみます。

ChatGPT回答

一方、Google社から提供されているチャット型大規模言語モデルBardにも同じ質問をしてみたところ、以下の回答が生成されました。

Bard回答例

Bardが生成した回答にもChatGPTと同じような内容が示唆されています。

ChatGPTとBardが生成した回答文からもわかるように、大規模言語モデルはコンタクトセンター運営にも大きな影響をもたらすことが予想されます。回答の内容をもとに、改めてコンタクトセンター運営の今後の可能性についてまとめてみました。

自己解決率向上

  • チャットボットやボイスボットの性能が向上し、自動化率が向上
  • マニュアルやドキュメントから回答文を自動生成し回答

運営の効率化

  • インテリジェントルーティングによる入電分配の効率化
  • 音声認識および要約の性能向上による後処理時間の削減
  • FAQ検索の高度化による保留時間短縮

VOC分析

  • 通話内容の自動分類やキーワード抽出によるVOC分析の効率化、高度化
  • 顧客ごとにパーソナライズ化された対応に向けた分析データの生成

ただし、先に述べたように、現在の大規模言語モデルはまだ課題があります。特に「個人情報の取り扱い」と「回答の正確性」の問題を解決する必要がありますが、イギリスのリサーチ会社であるJuniperr Research 社のレポートでは、AI を搭載したチャットボットが2026年末までに顧客との会話の最大70%を処理するようになると予測しており、大規模言語モデルの登場は、顧客の問い合わせにおける動向を今後一変させる可能性を秘めています。

海外での活用事例

すでに、大規模言語モデルを事業に活用している事例も出てきています。

インドの旅行代理店「Travel Professor」では、GPT-3.5が搭載されたChatGPTを顧客サービスおよび顧客獲得戦略に活用しています。FacebookMessengerやInstagramのDMで旅行の好みを送信すると、ChatGPT APIにおすすめの旅行先を回答するようリクエストが送信され、旅行先のリストを含むメッセージが顧客に返信されます。パーソナライズされた回答を提供できることでこれにより、コンバージョンの増加にも繋がっています。

また、米国の食品ブランド「Cello Cheese」では、顧客が好みの味や食感、要望などを質問すると、ChatGPTが顧客の好みに基づいたオーダーメイドのチーズの盛り合わせを作成するサービスを提供しています。

さいごに

大規模言語モデルの登場は、今後のコンタクトセンターの在り方を大きく変える可能性を秘めています。大規模言語モデルの活用によってコンタクトセンターの運営の高度化が進んでいくでしょう。私たちもAI技術および活用知見を最大限に生かして大規模言語モデルの活用によるコンタクトセンターの高度化をご支援していきたいと考えています。

執筆者紹介

金澤 光雄 氏
株式会社エーアイスクエア 営業部 ジェネラルマネージャー
テーマ:AI、機械学習、ディープラーニング
大手テレマーケティング会社で製造業、小売業、通信キャリアなどを担当し、アウトソーシングやITサービスの企画営業に従事。2016年にエーアイスクエアの創業メンバーとして参画。現在は営業責任者として、各種AIシステムの導入支援・定着支援、クラウドPBX構築支援、DX推進やAI導入に向けた業務コンサルティングなどに従事。コンタクトセンターにおけるサービス・ソリューションの研究・検討において株式会社TMJと協働している。

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