専門家コラム
ChatGPTが公開されたことで、高精度で対応領域の広いAIがプログラミング知識なく使えるようになり大きな注目を集めています。今回は、AIの歴史を紐解きながらChatGPTの登場や生成AIの今後の進化について、エーアイスクエアの稲月様に解説していただきました。
AIの進化の歴史
AIの進化を振り返るにあたり、まずはAIの分類についてご紹介します。
汎用型AIと特化型AI
AI(人工知能)を分類する際、広く「汎用型AI」と「特化型AI」に分けられます。
汎用型AIとは「領域に関わらず、総合的な判断ができるAI」です。ドラえもんやターミネーターなど、アニメや映画で描かれる「人間のように感情を持ち、自身で考えて行動するAI」をイメージすると分かりやすいかもしれません。
一方で、特化型AIとは「一定の領域にのみ特化したAI」のことを言います。こちらは人間の作業の一部分のみを代替し、あらかじめ学習した特定タスクのみを処理できるものです。現在、実用段階にあるAIはいずれも「特化型AI」ですが、将来的な実現を目指して汎用型AIの研究は現在も続けられています。
AIの変遷
引用元:What’s the Difference Between Artificial Intelligence, Machine Learning and Deep Learning?
これまでのAIはモデルの学習方法が進歩することで、対応できるタスクの領域を広げてきました。
特にディープラーニングが活用され始めた2010年ごろからは第3次AIブームと呼ばれ、様々なAIサービスが開発されています。
これは「AIが自ら特徴量を獲得する」ことが可能になったため、人間による学習作業量が減ったことが大きなターニングポイントとなっています。
また直近の大きなブレークスルーは2022年11月に発表されたChatGPTの登場です。
ChatGPTの登場
ChatGPTはOpenAI社が2022年11月に発表したサービスです。約3,550億個という超大量のパラメータを学習した大規模言語モデルGPT-3.5を搭載しています。
2022年11月に発表されて以降、大きな話題を呼び、わずか5日間で利用者が100万人を突破しました。
引用元:Statista
2023年3月には学習パラメータ数は非公開ですが、GPT-4も公開され、より高精度に回答をできるようにもなっています。
ChatGPTの特徴
ChatGPTは翻訳、質問応答、要約、文章生成、感情分析、ニュース記事・小説・詩等の作成、文章の分類、文章の言い換えなど、自由に入力したテキストに対して人間に近い形で様々な回答を生成します。
これまでのAIとの違いは、対応領域の広さと回答の人間らしさにあります。
先に述べたように、これまで実用化されているAIはDeepLのような翻訳用AIサービス、チャットボットのような質問応答AIサービスのようにすべて特化型AIでした。
一方でChatGPTは同一のモデル、UIでファインチューニングすることなく、幅広い領域のタスクを処理することができます。
また、チャット形式のUIでプログラミング知識がなくとも、自然文で指示を与えられることも大きなポイントです。
ChatGPTの課題
ChatGPTには、正確性や処理速度、コストなど様々な課題が上げられますが、このような課題はマシンパワーの進歩や、それに伴う学習パラメータ数のさらなる増加によって解決できます。
しかし、今後ChatGPTが汎用型AIとして進化していくにあたりクリアすべき課題は「タスクごとにプロンプトが必要であること」です。
ChatGPTはチャット形式で指示を出しますが、その指示文を「プロンプト」と言います。ChatGPTではプロンプトの書き方や内容によって結果に大きく差がでるため、最適なプロンプトを見つけることが重要となっています。
つまり汎用型AIに近づいてはいますが、結局人間が良いプロンプトを考えなければいけないのです。
ChatGPTの進化の形
ChatGPTの「タスクごとにプロンプトが必要である」という課題を解決しようとしているのが、「AutoGPT」です。
AutoGPTの概要
AutoGPTは「Significant Gravitas」という開発者によってGitHub上に公開されたオープンソースアプリケーションです。GPT-4を言語モデルに使用して開発されていますが、ChatGPTと異なり、「ゴール」を設定するだけで、ゴール実現のために必要なプロンプトを自動で作成し、実行します。
またインターネットでの検索も可能なため、ChatGPTの苦手なリアルタイム性のあるタスクも処理が可能です。加えて、メモリー管理機能も持っているため、処理結果を保存したり、データベースの情報を参照して結果を出力することも可能です。
AutoGPTを実際に使った事例
AutoGPTを利用した例がTwitter等でさまざま公開されていますので、いくつか紹介します。
<事例1>
【設定したゴール】
Vicuna-13Bの概要と性能について調べて要約して
【実行したプロンプト】
- Googleで公式サイトを検索
- 公式サイト記載内容をメモ
- メモを要約してレポート
- 性能を確かめるために実際にモデルをダウンロードし、テスト利用する方法を検索
- 公式サイトでダウンロード方法が見つからないため、「Hugging Face(AIモデル公開プラットフォーム)」で検索
こちらの事例ではオープンソースの大規模言語モデルの性能をまとめるように、AutoGPTへ指示したところ、公式サイトの情報をまとめるだけでなく、モデルをダウンロードして実際にテストしようとしたとのことです。
<事例2>
【設定したゴール】
防水シューズの市場を分析して、上位5件の長所短所をまとめて
【実行したプロンプト】
- Google防水シューズのレビューを検索
- 偏ったレビューや偽レビューは排除
- 各シューズの長所短所を要約
- 他のサイトでも1~3を実行
こちらの事例では、AutoGPTがレビューの質を考慮して評価を行ったとのことです。また、まとめた長所短所の結果を受けて、良い結果となるまでプロンプトを改善しながら何度も処理を実行したようです。
AutoGPTならゴール設定をするだけ
これらの事例を見てわかる通り、ChatGPTであれば結果を受けて人間がプロンプトを改善しながら最終的なゴールを達成する必要がありますが、AutoGPTであればその手間をかけずにゴールを自動で達成します。
まだまだプロンプト生成の精度面等で課題はありますが、汎用型AIへの進化の第一歩になるのではないでしょうか。
AutoGPTを利用するためにはGitHubやPythonの知識が必要となりますが、AgentGPTという類似サービスはUIから利用することが出来ます。AutoGPTほど高度ではないですが、ゴールを設定するだけで自律的にタスクを生成していく様子を確認することできますので、利用してみるとAIの進化を感じられるかもしれません。
また2023年5月12日からOpenAI社の提供する有償のChatGPT PLUS(月額20ドル)のサービス内で様々なプラグインが公開されました。リンクやファイルを読み取ることが出来るもの、Zapierという業務自動化ツールのワークフローを作成するもの、プラグイン同士を連携させるもの等、500個以上(2023年6月29日時点)の様々なプラグインが公開されています。
現在は3つまでしかプラグインを利用することはできませんが、今後利用できる数が増えると予想され、複数のプラグインを組合わせることによってAutoGPT同様にゴール設定だけで求める結果を出せるようになってきました。
さいごに
ChatGPTの登場で、高精度で対応領域の広いAIがプログラミング知識なく使えるようになり、大きな話題となっています。
過去のAIの歴史において、ディープラーニングの登場により「AIが自ら特徴量を獲得する」ことができるようになり、人間による学習作業が自動化されたことが大きなターニングポイントとなりました。
今回のAutoGPTやChatGPTプラグインの登場についても、プロンプト生成という人間の作業が自動化されており、大きなターニングポイントとなるのではないかと思います。
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