専門家コラム
労働人口の減少や消費行動の変化、リモートワークの普及等、ビジネス市場の激しい変化に対応していくために、あらゆる企業・業界においてDX化が進んでおり、コンタクトセンターにおいても業務効率化や顧客体験向上を目的にその動きが活発化してきています。本記事では、コンタクトセンターにおけるDXの実施状況や重要ポイントについて、株式会社エーアイスクエアの荻野様に解説していただきました。
DXの概要と企業の取り組み状況
DX(Digital Transformation)は、企業がデジタル技術を活用し、業務フローやビジネスモデルを改革、競争力を高めることを意味します。変化の激しいビジネス市場に対応していくために、DXはさまざまな企業・業界で急速に推し進められています。
富士キメラ総研が発表した2022年度のレポートでは、DX市場全体の規模は2兆7,277億円に達しており、前年度比で117.5%の成長をみせています。また、今後も成長は続くと予測され、2030年度には2021年度比の2.8倍の6兆5,195億円まで伸びると見込まれています。
加えて同レポートのユーザーアンケートでは、DXの取り組みを実行または実証実験しているユーザーは全体の67.8%を占めており、今後3年以内に取り組む計画をしているユーザーも含めると、全体の81.2%にも上ります。
引用元:富士キメラ総研:『2023 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編』
このようにビジネス市場ではDX化の動きが活発化していますが、DXと一口に言っても、その企業の成熟度に応じて3つの段階に分かれます。経済産業省は次のように分解しています。
- デジタイゼーション(Digitization)
- デジタライゼーション(Digitalization)
- デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)
「デジタイゼーション」は、紙文書の電子化等、アナログ・物理データをデジタル化することを指します。「デジタライゼーション」は、デジタルデータの活用によって既存の業務プロセスを見直し、業務を高度化する取り組みです。
そして「デジタルトランスフォーメーション」は、デジタル技術を用いて、全社的な業務プロセスの見直しや、顧客体験の向上・イノベーションの推進といった戦略的なビジネスモデルの変革を行うことを指します。
引用元:経済産業省:「DXレポート2」
このような段階をふまえて、現在自社はどのステップにあるのかを把握し、DXのためのアクションプランを策定していくことが重要となります。
DXが必要とされる背景
DXが求められる主な理由は以下になります。
- 労働人口不足による業務効率化
- リモートワークの普及
- 顧客の消費行動の変化
- 円滑なデータの共有・活用の必須化
- 新たなビジネスモデルの創出
また、2018年には、経済産業省が「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」の中で、「2025年の崖」と呼ばれる課題を問題提起しました。
これは、日本企業が持つレガシーシステムが妨げとなりDX化が不十分となった場合、2025年から2030年の間に最大毎年12兆円の損失が発生し、日本は国際競争力を失うという課題を示した言葉です。レガシーシステムとは、老朽化・ブラックボックス化によって、有効活用されていない既存システムのことを指します。現在、国を挙げてこのレガシーシステムからの脱却支援を行っているため、今後はさらにDX化への動きが加速すると予想されます。
コンタクトセンターにおけるDX実施状況
DX化の動きがあるのは、コンタクトセンター業界においても例外ではありません。
コンタクトセンター業界は元々の離職率の高さに加えて、近年の労働人口減少等により、オペレーターの採用難に苦しむ企業が増えています。また、人材獲得のため、オペレーターの平均時給も年々上昇し、コスト負担が大きくなっています。
引用元:CCAJガイドブック コールセンター最新事情2022-2023
※コールセンタージャパン 2022年6月号からエーアイスクエアにて作成
業務効率化によるコスト削減や人手不足による応対品質の低下防止のために、昨今のコンタクトセンターではAIやITを活用したツールの導入が急速に進んでいます。
AIチャットボット、WebRTC、音声認識、ボイスボットといった、コンタクトセンターをデジタルシフトさせるためのサービスが、多くの企業に導入されてきております。
しかしながら、多くのコンタクトセンターでは「デジタルトランスフォーメーション」ではなく、「デジタイゼーション」もしくは「デジタライゼーション」が進んでいる状況です。
コンタクトセンターのDXにおける5つの重要ポイント
ここからは、コンタクトセンターのDXにおいて押さえておくべき5つの重要ポイントについて解説します。
- 「センター戦略」の確認項目
経営層の戦略に対するコミットメントの度合い、KPIの達成、デジタル化の視点、部門間連携等。 - 「人材育成・要員管理」の確認項目
スキル定義や応対内容のナレッジへのフィードバック、データに基づく適切なオペレーターへの評価や管理等。 - 「オペレーション効率化・CX」の確認項目
センターのオムニチャネル運用やACDやIVRによる着信呼の振り分け、AIチャットボットや音声認識の活用による応対や履歴作成の自動化等。 - 「ICT管理」の確認項目
デジタル化戦略との整合性やクラウドサービスの活用、環境への適用、システム結合、在宅対応の可否等。 - 「データ活用」の確認項目
収集している情報の種別や内容、情報分析結果の活用、データの社内共有等。
この5つのポイントをふまえて、現在自社のコンタクトセンターはどの程度DXに取り組めているのかを把握した上で、アクションプランを考えていくことが重要です。
コンタクトセンターにおけるDXの成功事例
ここで、弊社がDX推進を実施したサービス事業者様の事例をご紹介します。
<対象業務>
全国約2万拠点の自社施設の営繕に関わる問い合わせ受付および受付処理業務
<概要>
自社運営の全国7拠点のBPOセンターにおける問い合わせ・受付処理業務の効率化や応対の均質化を目的に、コンサルティングとデータ分析を実施。受付フローの再設計を行い、拠点毎のローカルルールの統一化や紙媒体での受付処理作業のデジタル化を実現。
<成功要因>
データ分析と現場のプロセスモニタリングを入念に行い、課題点を網羅的に整理したことや、データに基づいた課題解決施策とソリューション提案を適切に行ったことで、スムーズに業務改革を実現。
<詳細>
- 1stフェーズ
PBXで取得した音声ファイルや受付処理データから、業務の大枠の流れを把握し、現行フローを作成。現行フローの整合性を図るため、現場にてプロセスモニタリングを実施し、想定課題とのギャップを整理。既存システム・ツールの詳細課題や、文化・風土による業務フローへの影響も把握した上で、主な課題ポイントと解決策を提示。 - 2ndフェーズ
現行業務フローごとの詳細工数と新フロー時の想定工数を算出。合わせて新フロー時に必須となるナレッジの整備や、利用システムの改善要望も洗い出し、改修を実施。 - 3rdフェーズ(現在)
一部地域に限定して、新フローでの運用検証を開始。結果、お客様側の問い合わせ負担の軽減・効率化の効果が見られたため、全面切り替えを推進中。また、紙媒体での受付処理をデジタル化し、業務効率化も実現。今後はFAQシステムも新たに導入し、自己解決率向上を促すとともに、デジタル化対応領域の拡大を検討中。
コンタクトセンターでのDXの失敗事例
コンタクトセンターでも推進されるDXですが、正しくアプローチしないと失敗するケースがあります。よくある失敗例として、チャットボットを導入したものの利用がされず、導入コストだけがかかってしまったというような事例があります。
チャットボットを例に、失敗の主な要因とその対策について解説します。
「DX」という言葉が先行して、とりあえずデジタルツールを導入してもDXは成功しません。自社の課題や目的を明確化して、それに応じた事前準備やサービス選定、運用体制の構築が非常に重要です。また、一足飛びに全業務プロセスをデジタル化するのではなく、まずは可能な範囲からスタートし、導入後にも継続して効果検証を行う事で最終的にDXを成功に導くことができます。
まとめ
コンタクトセンターのDXを成功させるには、5つの重要ポイントをふまえて戦略的にデジタルシフトしていくことが重要です。改善点を調査し、DXのための最適なアクションプラン策定につなげていく必要があります。
DX推進のご要望にも対応できますのでぜひお気軽にご相談くださいませ。