専門家コラム
プロンプトエンジニアリングの基礎とMarkdown記法の活用法を解説しました。コスト効率と品質の向上を実現する構造化された指示の作り方から、実践的なビジネス活用まで、意外と知られていないAIとの効果的なコミュニケーションのためのノウハウを解説します。
なぜいま、プロンプトエンジニアリングが重要なのか
AIモデルの性能は日々進化しています。OpenAI o1やClaude 3.5 Sonnetといった最新の高性能モデルは、曖昧な指示でもある程度意図を汲んで回答してくれます。しかし、以下の場合にはプロンプトを工夫してフォーマットとしておくことが特に重要になってきます。
1. コスト効率を考える場合
高性能なAIモデルは利用コストが高く、安価なモデルを選びたい場合があります。 GPT-3.5 TurboやGemini flash 1.5などの安価なモデルでも、適切なプロンプトを使用することで十分な品質を確保できます。
2. 一発で求める回答を得たい場合
生成AIはやりとりを数回行うことで回答の精度が高まることが知られています。しかし、定形な業務に適用する場合やシステムに組み込む場合は一発で求める回答を得たいでしょう。一発で求める回答を得るには必要な情報を一度に渡すことが必要です。
3. 再現性を高めたい場合
2でも触れましたが、同じような依頼を繰り返し行う際はプロンプトの工夫を凝らしておくべきです。また業務での利用を考えた場合、プロンプトを作成することでチーム内での共有・展開がしやすくなります。
さらに、プロンプトを用意しておくと結果の品質を安定させやすいという利点があります。モデルの性能は上にも下にも振れることがあり、AIモデルの品質評価のために同一のフォーマットを持っておくことは業務の安定化のために重要なことです。
このような背景から、効率的な生成AI活用には「構造化された指示」が重要になってきます。
そこで注目したいのが「Markdown(マークダウン)」という記法です。
次に、よくある失敗と、Markdownを使った解消法を解説します。
AIとの対話で陥りがちな問題
まず、よくある失敗例を見てみましょう。
このような指示では、複数の問題が発生します。まず、「具体的に」と「簡潔に」という相反する要求があり、指示の意図が曖昧になっています。また、商談内容、課題、アクションプランといった重要なポイントが文章の中に埋もれており、優先順位が不明確です。さらに、文字数やフォーマットといった具体的な指標が示されていません。 そのため、AIは各要素の重要度や優先順位を正しく解釈できず、求める品質の成果物を得られない可能性が高くなります。
Markdownを使った構造化
同じ依頼をMarkdownで構造化すると、このようになります。
このように構造化されたプロンプトは、みなさんが書きやすいだけでなく、AIにも解釈しやすい形式となっています。見出しやリストによって情報が整理されているため、AIは各要素の役割を明確に理解でき、人間も直感的に内容を把握できます。
また、このような構造化された形式はテンプレートとして活用すると良いでしょう。例えば上記の営業報告書では、「基本情報」の項目は案件ごとに書き換え、「必須記載事項」や「報告書の構成」は共通のフォーマットとして維持するといった使い方ができます。これにより、チーム内での展開が容易になり、品質の均一化も図れます。
プロンプトの調整も簡単です。文字数を変更したい場合は基本情報の該当箇所を書き換えるだけですし、新しい要件を追加する場合も適切な見出しの下に項目を追加するだけで済みます。このような柔軟性と再利用性が、Markdownを使った構造化の強みです。
Markdownの基本記法
では、具体的なMarkdown記法を見ていきましょう。主要な記法とその使い方です。
見出しの書き方
見出しは #(シャープ)を使って表現します。
リストの書き方
箇条書きには-(ハイフン)、番号付きリストには数字と.(ピリオド)を使います。
強調表現
テキストの強調には*(アスタリスク)や**を使います。
これらの基本的な記法を組み合わせることで、AIへの指示を効果的に構造化することができます。見出しを使えば文書の階層構造が明確になり、リストを活用することで要件を整理できます。また、強調表現を適切に使うことで重要なポイントを確実に伝えることができます。 このように、Markdownの記法を活用して指示を構造化することで、AIからより適切な回答を得られるようになります。
より実践的なMarkdown記法
先ほどは見出しやリストの基本を学びました。さらに実践的な記法として、引用とコードブロック、表形式による表現方法をご紹介します。
コードブロックとコードスパン
コードブロックは、複数行にわたる参考情報や、形式を保持したまま表示したい内容を記述する際に使用します。
コードスパンは単行でなにか強調したい場合に使用すると良いでしょう。プログラムを引用する際に主に使いますが、注目されたい専門用語を引用する場合に使うことも一般的です。
引用
引用は、情報源を明示したり、特に注目してほしい部分を強調したりする際に使用します。
メールなどでも使われると思いますので親しみやすいでしょう。
表形式での情報整理
要件や条件を整理する際、表形式で示すと非常に分かりやすくなります。以下のように記述できます。
これらの記法は、コンタクトセンターの様々なシーンで活用できます。
実務での具体的な活用例:
- お客様との通話記録における発言を引用記法で正確に残す
- サービス内容や料金プランを表形式で分かりやすく整理する
- 対応マニュアルやFAQからの参照箇所を引用で示す
- エスカレーションが必要な事案をコードブロックで関連情報(顧客情報、対応履歴など)と共に記録する
- 定型文や返信テンプレートをコードブロックで保存・共有する
- よくある問い合わせ内容とその回答例をコードブロックで管理する
- ミーティングの議事録から重要事項を引用で抽出する
- お客様対応の進捗状況やエスカレーション履歴を表形式で管理する
特に情報共有の迅速性や正確性、履歴管理の効率化が求められるコンタクトセンターでは、これらの記法を組み合わせることで効果を発揮します。例えば、お客様からの問い合わせ内容を引用で記録し、それに対する対応状況を表で管理し、定型的な返信内容をコードブロックで保持しておくといった使い方ができます。また、オペレーターのトレーニング資料作成時には、ロールプレイングのスクリプトをコードブロックで作成・共有し、適切な対応例を引用で示すことで、より効果的な研修を実施できます。このように、目的に応じて適切な記法を選択・組み合わせることで、コンタクトセンターにおける情報管理および共有の効率化、ひいては顧客満足度の向上に繋がるでしょう。
このように、目的に応じて適切な記法を選択・組み合わせることで、ビジネス文書の可読性が向上し、情報の整理や共有がより効率的になります。特に、正確性が求められる業務や、チームでの情報共有が必要な場面で、その真価を発揮するでしょう。
プロンプト改善の実例
では、実際のプロンプトがどのように改善できるのか、カスタマーサポート用の返信作成例で見てみましょう。
Before(改善前)
After(改善後)
改善後のプロンプトを使用
生成例(Gemini flash 1.5を使用):
この改善例からわかるように、構造化されたプロンプトには多くの利点があります。まず、状況が明確に説明され、必要な要素が漏れなく指定されています。また、文章作成における表現上の注意点も明示され、チェックポイントも分かりやすく示されています。 特に業務上の定型文書作成では、このような構造化が効果を発揮します。文面のトーンや含めるべき要素を明確にすることで、AIはより適切な文章を生成できるようになります。
まとめ:効果的なプロンプトを作るためのチェックリスト
最後に、効果的なプロンプトを作成する際のチェックリストをMarkdown形式で示します。
このようなチェックリストを活用しながら、徐々に自分なりの効果的なプロンプトパターンを築いていくことをお勧めします。
終わりに
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