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下書きは数分でできるようになったのに、退社時間は変わらない。何が消えて何が残るのか、どの数字が逆に伸びるのかを整理します。
「作業時間が3割減りました」。報告としては、これ以上ない数字です。それなのに、現場から「楽になった」という声が上がってきません。
最初に消えるのは、答えが一つに決まる仕事
AIが最初に引き受けてくれるのは、たとえば議事録の要約、定型的な文書のたたき台、社内規程のどこに書いてあるかを探す作業といったものです。誰がやっても結果が同じになる仕事だと言い換えてもいいかもしれません。件数としては全体のかなりの割合を占めますから、処理量ははっきり増えます。
手元に残るのは、調べないと答えが出ない仕事
一方で、残るのはこういうものです。「この費用、規程上は通せますか」。条文を確認し、過去にどう運用してきたかを調べ、例外にあたるかどうかを判断しなければ答えが出せません。「この条項、うちは飲んで大丈夫でしょうか」。類似のケースを探し、リスクを見積もり、誰に確認を取るかまで決めて、ようやく一件が終わります。
簡単なものから順に消えていきます。当たり前のようですが、これが効いてきます。
件数は増え、1件あたりは伸びる
数字の動きを整理しておきます。処理件数は増えます。その一方で、1件あたりの確認と手直しにかかる時間は伸び、差し戻しの回数も、上長に相談する頻度も上がるかもしれません。
しかも、以前はなかった作業が一つ増えています。AIが出したものが正しいかどうかを確かめる時間です。ゼロから書く手間はなくなりましたが、読んで直す手間が新しく発生したりします。
忙しさを決めるのは件数ではなく、件数と1件あたりの時間を掛けた総量です。数えているのは件数、疲れているのは総量。ここがずれている限り、報告と実感は一致しません。
もうひとつ、静かに起きていること
見落とされやすい変化があります。若手が下書きを作る機会を失うことです。
これまでは、まず自分で書いてみて、直されて、その理由を教わる。この繰り返しで判断の基準が身についていきました。最初からAIの草案が手元にあると、この過程が丸ごと飛びます。チェックはできるけれど、ゼロからは組み立てられない。そういう人が静かに増えていきます。
見る場所を3つに絞る
ですから、処理件数だけを見ていても状況はつかめません。総作業時間、差し戻しの割合、そして若手が独力で仕上げられる案件の割合。この3つを並べると、何が起きているかが見えてきます。
このうち3つ目は、たいていどこも測っていません。導入したあとで比べようとしても、比較する相手の数字が残っていないという事態になりがちです。着手を決めた時点で控えておくだけで、半年後の議論はまったく違うものになります。
そして、たいてい同じところに行き着きます。ツールの性能が足りないのではありません。どの仕事を機械に任せ、どれを人が持つのかが、まだ決まっていないのです。