もちろん1on1の場が準備できたらすべて解決ではありません。次に気をつけたいのがコミュニケーションの質の部分です。1on1ミーティングではコーチングを受ける相手が「自ら考え、自分で答えを出す」ように対話を進めることが大切なのですが、多くのSVには「オペレーターに適切なアドバイスをしなければならない」という固定観念があるようです。SVに限らずアドバイスしているうちについつい自分ばかりが話してしまうという上司は少なくありませんが、SVは前述のとおり常日頃から「適格な指示やアドバイス」を求められる場面が多いので、一般的な管理職よりもこの傾向は強いように思います。
よく研修の中でSVにフィードバック面談のロールプレイをやってもらうとこんな展開になることがあります。
オペレーター役
「意識はしているのですが、なかなか目標のKPIを達成するのが難しいです」
SV役
「そうですか。このマニュアルに書かれているポイントは実践できていますか?」
オペレーター役
「はい。それは研修で習ったので意識して実践しているつもりです。それでもなかなかうまくいかないのです」
SV役
「なるほど、そうなんですね。
それでは〇〇といったやり方もありますが、これをやってみてはどうですか?」
このように、聞かれてもいないうちからアドバイスをし始めてしまうことが多いのです。
コーチングにおいても提案や要望というかたちで上司側の考えを伝えることはありますが、相手がまだ自分で考えられるうちは、相手の自由な考えを妨げないようにするのが基本です。今回のような場面では「特にどんな時に難しさを感じることが多いのか?」や「その業務を行っているときどんな気持ちで行っていることが多いか?」など質問することによって、オペレーター自身の考えを引き出すことができる余地がまだ十分に残っています。こんな場面でSVが次々に解決策を提示してしまうと、相手は自分で考える余地がなくなり、相手の思いも深い部分で理解することができなくなってしまいます。
1on1ミーティングは相手の自発的な行動を促すことに目的があるわけですので、“目先の問題解決に走らないこと”は重要なポイントのひとつです。もちろん目標であるKPIを達成するのは大事なことですが、SVが一方的にアドバイスするだけではいつまでも依存の関係を脱することができません。
したがってSVが1on1に臨むときは、日常の「適格な指示・アドバイス」を行うモードからオペレーター自身が自分のことをじっくりと考えることができるように「質問し、耳を傾ける」モードへと意識的にチェンジする必要があります。
また、1on1でモードチェンジが必要なのはSV側だけではありません。オペレーターにも“答えをもらう”モードから“自分で考える”モードにチェンジしてもらう必要があります。そのためには1on1ミーティングを始めるまえにSVから「業務中は私から指示することが多いので、1on1の時間は〇〇さんの考えを聴くことを中心にすすめたい。」とはっきり伝えて合意形成を図っておくのがポイントです。
自分で考えることに慣れていないオペレーターの中には、自分の考えを話すことに対して抵抗感を示す人もいると思いますが、「正解があるわけではないので、何を話しても大丈夫」「SVの考えだけでは及ばない部分についての話なので、あなたに考えてもらうことが必要なのです」ということを説明して、まずはチャレンジしてもらうようにしましょう。