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専門家コラム


初回投稿日 : 2021/05/06

コンタクトセンターのマネジメントにコーチングは有効か?

近年、コンタクトセンターの人材育成にコーチング活用を検討される企業が増えています。その一方で、通常のビジネスシーンにおけるコーチングメソッドをそのままコンタクトセンターに当てはめても、うまく機能させることができないケースも多いとお聞きしています。
そこで今回は、マネージャー育成プログラムやパーソナルコーチング、人材コンサルティングを専門にサービス提供されている専門家のお立場から、コンタクトセンターの人材育成におけるコーチング活用のポイントについて、詳しく解説いただきました。

【執筆者】
株式会社エヴリック 代表取締役社長 岸川 茂 氏
https://evric.jp/

現場SVとオペレーターの間に立ちはだかるコミュニケーションの課題

近年、1on1ミーティングを取り入れる企業が増えています。1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で対話をするミーティングのことで、一般に部下の成長や目標達成を支援することを目的とし、業務報告等とは区別されます。

新型コロナウイルスの影響によりテレワークが増え、従来のように上司が部下の行動を細かく管理することが難しくなってきた中で、このような部下の自律的行動を支援するマネジメントスタイルはより重要度を増してきています。

1on1ミーティングを行う場合において、上司が高めておきたいのがコーチングスキルです。コーチングとは部下の自発的な行動を促すコミュニケーション手法であり、上司が指示やアドバイスを行う代わりに、部下に問いかけながらその考えに耳を傾け、部下が自分で行動を決める手助けをする関わり方のことです。

多くのスタッフが働くコンタクトセンターでは、早くからセンターのスーパーバイザー(現場管理者、以下SV)の人材育成スキル向上のためにコーチングの手法が注目され、SV向けの研修に取り入れられてきました。

ところがコンタクトセンターの現場でお話を伺ってみると、コーチングを研修で学んだことはあるもののうまく活用できていないという声が少なくありません。特にSVをはじめとする現場管理者とオペレーターの間のコミュニケーションではこんな悩みが多いようです。

「スタッフの離職が多い、突然辞めると言い出す」
「新人には手厚くフォローしているがベテランや中堅へのフォローができてない」
「ES調査を行ったが、スタッフからはSVのコミュニケーションに対する不満が多かった」
「オペレーターに意見を聞いても、自分から意見を言うことはほとんどない」
「オペレーターに上昇志向がない」など

SV向けセルフチェック

実際にSVは普段、オペレーターとどのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか。

私はいつもSV向け研修の冒頭で、参加者にこんなセルフチェックをしてもらっています。みなさんも自社のSVがどのような状況であるか、また管理職の方はオペレーターのところを部下と読み替えていただき、自分と部下とのコミュニケーションについてチェックをしてみてください。
 

このチェックをしてみると、ほぼどのセンターでも似たような結果になります。共通してチェックが多いのは2、3、4の項目です。これらはいずれもSV自身が知っていることをオペレーターに伝えるという関わり、つまりティーチングの要素が強い関わり方です。

■ティーチングの要素が強い関わり方

  • 業務に必要な指示や伝達をする
  • オペレーターからの質問に答える
  • 自分の知識や経験に基づいてアドバイスをする

一方でコーチング的な要素が強いのは6、7、8、10です。コーチングを学んだSVがこれらを実践できていれば、特に6のようにオペレーターの話にじっくり耳を傾けることができていれば、オペレーターが「突然辞めると言い出す」ことはないはずですが、なかなかそれができないのはなぜなのでしょうか?

■コーチングの要素が強い関わり方

  • オペレーターのことをよく理解するためにじっくりとオペレーターの話に耳を傾ける
    (価値観、今の状態、やる気のでるポイント等)
  • オペレーターの良くできているところを見つけて褒める・承認する
  • オペレーターに修正してもらいたい点についてフィードバックをする
  • オペレーターの目標やこれから取り組みたいことについて質問をする

SVはオペレーターからティーチングを求められている

その答えはSVの業務特性にあります。

SVの仕事はオペレーターからの手上げ対応をはじめとして、「その場で明確な答えを出さなければならない」という場面が多いです。例えば、お客様との通話を保留にして質問をしてきたオペレーターに対して、SVは「〇〇さんはどのように回答をするのがいいと思いますか?」などとオペレーター自身に考えさせるコーチング的な対応はできません。「〇〇と回答してください」と明確に指示をするのが正しい対応です。

このように、SVがセンター管理業務を円滑に行ううえでは、先程のチェックリストの項目2、3、4にあるティーチング的な対応をしっかり行うことが優先事項としてあるわけです。

ティーチングとコーチングの違い

コンタクトセンターではこのように、困った場面で明確な答えをくれるSVがオペレーターや周囲のスタッフから信頼される傾向があり、SVもそれができるよう業務に関する知識を身につけるための努力をします。これによって日常業務が円滑に進められているわけですが、業務がうまく回っているからそれで良しとしてしまうと、あるいは良しとしないまでも、人数不足等からSVがオペレーターと必要最低限のコミュニケーションしかとらなくなると、前述のような問題が必ずと言っていいほど噴出することになります。

コーチングを機能させる「場づくり」の重要性

コーチングはじっくり相手の話に耳を傾け、自発的な行動を促していく関わりですので、SV・オペレーター間のコミュニケーション上の問題やオペレーターの成長課題に対しては非常に効果的である一方で、コンタクトセンターにおける手上げ対応やミス・クレーム対応など、緊急性の高い場面では機能しにくい手法といえます。

したがってコーチングをうまく機能させるためには、緊急性が高くない状態でコミュニケーションを取ることができる場(=定期的な1on1ミーティングの場)を準備することが必要になります。SVとオペレーターがなかなか落ち着いて話すことができないコンタクトセンターのような環境下においては、こういった場づくりを組織として行うことが非常に重要になってきます。コーチングを学んでもうまく活かせないという組織にはこの場づくりが上手くできていないケースが多いのです。コーチングをいくら学んでも、それを発揮する場がなければ宝の持ち腐れになってしまうということです。

SVとオペレーターとの1on1ミーティングは、短い時間で構わないので定期的に月に1回か2回、落ち着いて対話できる場を設けることが大切です。シフトの問題でそのような時間が取りにくいという声もあるかもしれませんが、もし先に挙げた離職やESの問題があるようであれば、それを解決するための投資としてその時間を設けていただきたいと思います。

SVのモードチェンジが、1on1ミーティング成功の鍵

もちろん1on1の場が準備できたらすべて解決ではありません。次に気をつけたいのがコミュニケーションの質の部分です。1on1ミーティングではコーチングを受ける相手が「自ら考え、自分で答えを出す」ように対話を進めることが大切なのですが、多くのSVには「オペレーターに適切なアドバイスをしなければならない」という固定観念があるようです。SVに限らずアドバイスしているうちについつい自分ばかりが話してしまうという上司は少なくありませんが、SVは前述のとおり常日頃から「適格な指示やアドバイス」を求められる場面が多いので、一般的な管理職よりもこの傾向は強いように思います。

よく研修の中でSVにフィードバック面談のロールプレイをやってもらうとこんな展開になることがあります。


オペレーター役
「意識はしているのですが、なかなか目標のKPIを達成するのが難しいです」

SV役
「そうですか。このマニュアルに書かれているポイントは実践できていますか?」

オペレーター役
「はい。それは研修で習ったので意識して実践しているつもりです。それでもなかなかうまくいかないのです」

SV役
「なるほど、そうなんですね。
それでは〇〇といったやり方もありますが、これをやってみてはどうですか?


このように、聞かれてもいないうちからアドバイスをし始めてしまうことが多いのです。

コーチングにおいても提案や要望というかたちで上司側の考えを伝えることはありますが、相手がまだ自分で考えられるうちは、相手の自由な考えを妨げないようにするのが基本です。今回のような場面では「特にどんな時に難しさを感じることが多いのか?」や「その業務を行っているときどんな気持ちで行っていることが多いか?」など質問することによって、オペレーター自身の考えを引き出すことができる余地がまだ十分に残っています。こんな場面でSVが次々に解決策を提示してしまうと、相手は自分で考える余地がなくなり、相手の思いも深い部分で理解することができなくなってしまいます。

1on1ミーティングは相手の自発的な行動を促すことに目的があるわけですので、“目先の問題解決に走らないこと”は重要なポイントのひとつです。もちろん目標であるKPIを達成するのは大事なことですが、SVが一方的にアドバイスするだけではいつまでも依存の関係を脱することができません。

したがってSVが1on1に臨むときは、日常の「適格な指示・アドバイス」を行うモードからオペレーター自身が自分のことをじっくりと考えることができるように「質問し、耳を傾ける」モードへと意識的にチェンジする必要があります。

また、1on1でモードチェンジが必要なのはSV側だけではありません。オペレーターにも“答えをもらう”モードから“自分で考える”モードにチェンジしてもらう必要があります。そのためには1on1ミーティングを始めるまえにSVから「業務中は私から指示することが多いので、1on1の時間は〇〇さんの考えを聴くことを中心にすすめたい。」とはっきり伝えて合意形成を図っておくのがポイントです。

自分で考えることに慣れていないオペレーターの中には、自分の考えを話すことに対して抵抗感を示す人もいると思いますが、「正解があるわけではないので、何を話しても大丈夫」「SVの考えだけでは及ばない部分についての話なので、あなたに考えてもらうことが必要なのです」ということを説明して、まずはチャレンジしてもらうようにしましょう。

聴くことで新しいストーリーが生まれる

オペレーターの自由な考えを引き出すうえでは、上記のように事前にしっかりと目的や進め方を説明することに加え、自由に話せる雰囲気づくりが大切です。安心して話すことができるクローズな環境を用意するのがベストですが、センターのレイアウト上難しいという場合は、周囲に話す内容が聞こえにくいよう工夫して対話をするようにしてください。

また「何を話しても大丈夫」という安心感があってこそ、オペレーターは本音を話すことができます。そのためにはたとえSVの考えとは違う意見や少々都合の悪い話をオペレーターが話したとしても、それを一旦は受け止める覚悟が必要になります。必ずしも同意する必要はありませんが「〇〇さんは今そのように思っているのですね」というように、相手がそう考えているという事実を受け入れることが大切です。

このように相手の考えをじっくり聞いていると、最初ネガティブなことを話していた相手の反応が変わってくることがあります。つい先日あるコンタクトセンターで働くスタッフAさんと1on1ミーティングを行っていたときのことです。


はじめAさんは直属の上司に対する不満やそれがやる気が出ない原因になっているということを繰り返し口にしていました。私は「それを乗り越えて、自分の成長のためにどうするのがいいかを考えてくれるといいんだけどなあ」というようなことを思いながらもあえてそれは口に出さず「なるほど、そのようにAさんは感じたんですね。それはつらかったですよね」というように受け入れと共感の姿勢で話を聴くことに専念していました。

しばらくするとAさんは
「なんか私ネガティブなことばかり言っていますね。私、本当はこんなじゃないんです」と言い始めました。

私は「本来のAさんとしてはどうありたいのですか?」と質問してみました。

するとAさんはこのように答えました。
「今はちょっと感情的にいろいろ不満を言ってしまいましたけど、自分がやるべきことはわかってきたように思います。少し前向きになってきました。今日話せて良かったです」

このように話しているうちに、自分自身の捉え方が変わってくることをオートクラインといいますが、これが起きているというのはコーチングがうまく機能し始めている証拠です。


このとき、もし何か途中でいろいろと口を挟んでいたら、こういった相手自らが起こす変化を見ることはできなかったかもしれません。
「自分は相手の話の途中でつい口を挟んでしまうことが多い」と思う方は、ぜひ一度“聴くこと”に徹してみてください。きっと今までは見られなかったような新しいストーリーがそこに生まれると思います。

マネジャーとSVの間でも1on1ミーティングの時間を

今回はSVとオペレーターの間のコミュニケーションを中心に書いてきましたが、センターのマネジメントにおいてはマネジャーとSVの間でもぜひ同じように1on1の時間を持っていただきたいと思います。

SVの場合はオペレーターよりも仕事の自由度が高いため課題も少し異なってきますが、マネジャーの方からよく聞く悩みとして「ルーティン業務はしっかり行うが改善意識が不足している」「指示待ちで自発的な行動が少ない」「SVに主体性がない」等があります。

こういった課題をお持ちの方にこそ、ぜひSVと定期的な1on1を行うことをお勧めします。
SVは緊急性の高い仕事に時間も意識も取られがちです。定期的に上記のような成長課題に対してマネジャーがじっくりと耳を傾ける時間を取れば、SV自身がこういった課題に向き合うきっかけになりますし、それが自発的な行動につながっていくものと思います。
短い時間で構いませんので、ぜひマネジャーとSVがじっくりと対話できる時間を作ってみてください。

執筆者紹介

岸川 茂 氏

株式会社エヴリック 代表取締役社長
テーマ:コーチング
コンタクトセンターのマネジャーとして10年以上のキャリアを積んだ後、センターの変革支援、人材部門の責任者として人材育成システムの設計やコーチングの浸透活動に携わる。2019年4月より現職。企業の管理職やセンターマネジャー、SVを対象にマネジメントスキルの向上を目的とした研修の提供や様々な業界の経営者、管理職のパーソナルコーチとして主にビジネス領域の目標達成支援を行っている。

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