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専門家コラム


初回投稿日 : 2021/05/11

SVが優先して身につけるべきコーチングスキルとは?

SVが優先して身につけるべきコーチングスキルとは?

今回のコラムでは、「コンタクトセンターにおけるコーチング」をテーマにした全3回の連載の第2回目として、マネージャー育成プログラムやパーソナルコーチング、人材コンサルティングを専門にサービス提供されている専門家のお立場から、コンタクトセンターのマネジメントにおけるコーチングの活用ポイントについて事例を交えながら解説いただきました。

【執筆者】
株式会社エヴリック 代表取締役社長 岸川 茂 氏
https://evric.jp/

【「コンタクトセンターにおけるコーチング」連載記事】
コンタクトセンターのマネジメントにコーチングは有効か?
スタッフの自発性を高めるために行うべきこととは?

SVが必ず身につけておくべきスキルとは?

第1回のコラム「コンタクトセンターのマネジメントにコーチングは有効か?」では、センター管理者(スーパーバイザー、以下SV)は日常の業務において的確な指示やアドバイスを求められているため、そこに相手主体に考えさせるスタイルであるコーチングをうまく活用するうえでの難しさがあるということを説明しました。

コーチングは、傾聴や質問によって相手の考えを引き出していくことで、部下の成長や中長期的な目標達成の支援に有効である一方、トラブル対応等の緊急時には、「指示をする」あるいは「仕事を巻きとる(上席対応する)」ほうがうまくいくことが多いでしょう。こういったトラブルシューティングを中心に対応しているSVにとっては、コーチングを活用する機会がなかなか見いだせないこともあるかと思います。

そのために1on1ミーティングのように、SVとオペレーターが落ち着いて話ができる場を作ることが重要です。そして、上記のような慌ただしい日常業務の中においても、SVが必ず身につけておきたいスキルがあります。

それはフィードバックのスキルです。

コンタクトセンターにおけるフィードバックは、定期的にオペレーターの成績を伝える場面やミスが発生した際など様々な場面で行われます。一般的なビジネスコーチングにおいてもフィードバックは重要なスキルであり、クライアント(コーチングを受ける人)の目標達成のために、あえて乗り超えるべき課題に向き合ってもらうというような場面でコーチがフィードバックを行うことが多いです。

ところがこのフィードバックについて正しい理解がされていないために、面談を行っても望ましい結果が得られないというようなことが多いようです。例えばコンタクトセンターの現場ではこんな声をよく耳にします。

「時間を取ってフィードバックしたのに、まったく改善されない」
「フィードバックしたらモチベーションを落としてしまった」
「相手にどう思われるかが怖いので、そもそもフィードバックできない」
「フィードバックしても素直に受け入れてもらえず、話が平行線になってしまう」

このような状態では、オペレーターの仕事ぶりに問題があっても改善されず、センターのオペレーション品質にも悪影響が出てきます。こういった事態にならないためにも、SVがフィードバックのポイントをしっかり理解し実践できるようになることは、傾聴や質問といったスキル以上に緊急性が高いことといえます。

ここでフィードバックについて改めてその目的と意義について整理します。

一般に仕事におけるフィードバックとは、部下の仕事の結果、または仕事の進め方、言動に対して客観的事実や上司が気づいた点を伝えることをいいます。通常、定期的な面談や部下の目標やあるべき姿に対して軌道修正が必要な場面で行いますが、ある種の「ダメ出し」のような印象を持っている方も多いのではないかと思います。

フィードバック本来の意味は、相手から伝わってきていることを「相手に返す」ことにあります。もともとダメ出し的な意味合いはないのですが、「軌道修正をしないといけない」=「今の状態ややり方に問題がある」という印象を与えてしまうのでしょう。

こういったネガティブな印象を与えないように、フィードバックを行う際は「より良い状態にするため」という目的が相手にしっかり伝わるように説明をしたうえで行うのが効果的です。

うまくいかないフィードバックの典型例

コンタクトセンターで行うフィードバックは、KPIやモニタリングスコアの結果をオペレーターに伝える際やクレーム、ミスが発生した時にオペレーターを指導する目的で行われることが多いと思います。このように「すでに出された数字」や「発生したミス」といった客観的事実を相手に伝えるフィードバックを客観的フィードバックといいます。

この客観的フィードバックは、SVがオペレーターを育成するうえでは不可欠なのですが、これがうまく行われていないということがよくあります。研修でフィードバックのロールプレイを行った際、こんなやりとりがありました。


SV役
「鈴木さん、ちょっといいですか。
この前の鈴木さんの応対がクレームとなってしまったんです。
そのときの音声を聞いてもらえますか?」

~お客様の質問のポイントと該当オペレーターの回答した内容が食い違っている音声ログを聞いてもらう~

SV役
「何が問題だったと思いますか?」

オペレーター役
「・・・ちょっとどこが問題だったのかよくわからないんですが、
少し早口で対応してしまったことが悪かったような気がします」

SV役
「そうですか、確かに早口というのもありますが、
お客様が求めていることがちゃんと理解できていましたか?
私はそこができていなかったことが問題だったと思うんですが

オペレーター役
「うーん・・・自分としては、理解をしていたつもりだったんですが・・・・」


SVの話に対して、オペレーターの鈴木さんはちょっと受け止めにくい様子ですが、実はこれはフィードバックがうまくいかない典型的な例のひとつです。

このSVの話では、「クレームが発生した」ということ以外、お客様との対話の中で何があったのかという“事実”がよくわかりません。

「お客様の求めていることが理解できていなかったことが問題だ」というのは、あくまでSVの解釈であり、実際に起きた“事実”を飛ばして話をしているため、オペレーターの考えと食い違いが発生してしまっているのです。

フィードバックの際にSVの考えや解釈を伝えてはいけないとまでは言いませんが、最初に伝えなければいけないのは「何が起きたのか」という事実です。この例でいくと「お客様の質問はAであるのにBについて説明していた」という客観的な事実を伝えることを優先したかったところです。

事実と解釈の区別

このように客観的フィードバックを行う際の大切なポイントは、事実をしっかり伝え、解釈と混同しないということです。SVにロールプレイをやってもらうと、事例のように事実の提示がなく解釈を伝えているケースや事実と解釈を混同して伝えてしまいポイントがぼやけてしまうフィードバックがよく見受けられます。

KPIのようにわかりやすい事実(数値)がある場合はもちろんですが、この事例のように通話の内容についてフィードバックする際も、「何について認識を持ってもらいたいのか」「そのために伝えるべき事実は何なのか」を明確に伝えられるよう予め整理をしておくとスムーズにフィードバックをすることができます。

また、日頃から相手に何かを伝えるときに「これは事実なのか、自分の解釈なのか」を考えるようにするだけでもフィードバックのための良いトレーニングになります。SVに限らず管理職など部下を指導する立場にいる人は意識的に実践しフィードバックの精度を高めていただきたいと思います。

コーチングでは相手に教えてはいけない?という誤解

このフィードバックについて説明をするとよく、「コーチングは相手に気づかせなければいけないので、直接伝えるのはダメなのではないか?」と質問されることがありますが、それはコーチングに対する誤解です。

確かにコーチングは自ら考えられるようにサポートしていくのが基本ですが、フィードバックのように本人が知りえないことや知っていても意識が向けられていないことを伝えることは、本人の新たな気づきにつながるアプローチといえます。
例えば、先ほどの事例のように、お客様が質問していることとオペレーターの答えている内容がずれているというようなときは、その事実をしっかりとフィードバックしたうえで「なぜそれが起きているか」「改善するためにどのように取り組めばいいか」というところを本人に考えてもらえばいいわけです。

事例のように「何が問題だったと思いますか?」というような問いかけは、考える範囲が広すぎることに加え、自分がしてしまった失敗を突き付けられているような印象を与えるためオペレーターが素直に考えにくい質問といえます。それであればオペレーターに目を向けてもらいたいポイントをはじめにフィードバックして明らかにしたほうが、お互いの認識齟齬が出にくく、その後の対話もスムーズに進められると思います。

フィードバックを素直に受け止めてもらうために

信頼関係

ここまでフィードバックについて書いてきましたが、フィードバックの目的は相手がそれを受け止めて、自分の行動を改めていくことにあります。そのためには、フィードバックを受けるオペレーターに、「このSVさんの話ならしっかり聞こう」と思わせることが大事です。

これに欠かせないのがSVとオペレーターの間の信頼関係です。もし信頼関係が築けていない中でフィードバックを行えば望ましい結果が得られない可能性が高くなります。普段コミュニケーションをあまりとっていないSVに急に呼び出されてミスについて指摘されたらオペレーターはどのように受け止めるでしょうか?

そのオペレーターのタイプにもよりますが、「普段がんばっているところは見てくれないのに、問題があるところだけ指摘される」と不満に思うこともあるでしょうし、「私はダメなオペレーターだと思われているのかな」というように自信を失ってしまうことも考えられます。

そうならないためには普段からの声掛けや1on1ミーティング等でしっかりとコミュニケーションを取り、信頼関係を構築しておくことが大切です。この信頼関係を構築するために有効なコーチングスキルが「承認」です。

承認とは、相手の存在や行動を「認める」「受け入れる」ことをいいます。SVがオペレーターに対して行う承認は「自分のことを気にかけてくれている」という印象を与え、オペレーターからの信頼を深めるためには非常に重要かつ効果的な方法です。

承認にはいくつかのポイントがあります。オペレーターが成果を挙げたときはもちろんのこと、次のようなタイミングは絶好の承認チャンスです。

  • 以前よりも仕事の取り組み方や発言に前向きな変化があったとき
  • 業務に対して自分なりの考えを話したり、改善提案をしたりしてきたとき
  • フィードバックをした後、その場で約束したとおりの行動を取っていたとき

こういったポジティブな兆候が見られたときには、ぜひとも言葉にして伝えていただきたいタイミングです。

「この前フィードバックしたところをちゃんと実践してくれていますね」というSVからの一言があれば、オペレーターには「自分のことを気にかけてくれているんだな」というSVへの信頼感が生まれ、その行動を続けていくモチベーションにもなります。

冒頭でふれたとおり、フィードバックはどうしてもダメ出しと受け取られてしまうリスクがあります。オペレーターのできていないところを指摘するだけではなく、できているところを承認することでこのリスクを軽減することができます。

指導する側の立場にいる人はどうしてもできていないところに目が行きがちですが、どんなオペレーターにも必ずできているところがあるはずです。フィードバックの際にも「いつも〇〇についてしっかりやってくれていますね」ということを言葉にして伝えるだけで、「私のできているところも理解したうえで話をしてくれているんだな」というように相手の受け止めやすさは格段に高まります。

承認とフィードバックのバランスがうまく取れているコンタクトセンターは、総じてスタッフがいきいきと仕事をしているようにみえます。管理者が常日頃から一人ひとりの存在やその行動を承認しながらも、向き合うべきところにはしっかりと向き合う厳しさも併せ持つ、そんな姿を体現するためにぜひSVやマネジャーのみなさんのフィードバックと承認のスキルを継続的に高めていっていただけたらと思います。

執筆者紹介

岸川 茂 氏
株式会社エヴリック 代表取締役社長
テーマ:コーチング
コンタクトセンターのマネジャーとして10年以上のキャリアを積んだ後、センターの変革支援、人材部門の責任者として人材育成システムの設計やコーチングの浸透活動に携わる。2019年4月より現職。企業の管理職やセンターマネジャー、SVを対象にマネジメントスキルの向上を目的とした研修の提供や様々な業界の経営者、管理職のパーソナルコーチとして主にビジネス領域の目標達成支援を行っている。

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