専門家コラム
多くの企業で実践されている「CX(顧客体験)向上の戦略」について、全6回の連載形式で推進方法を解説しています。連載3回目にあたる今回は、CX戦略“2周目”で重要な視点となる「顧客接点・提供価値の再設計」にフォーカスし、顧客提供価値を戦略的に高めるための有人対応と自動対応の切り分けのポイントや、どのようなセグメントにどのような顧客接点・コストを配分すべきかについて、実践方法を紹介します。(『月刊コールセンタージャパン』2022年1月号掲載記事を編集して掲載しています。)
コンタクトセンターにおけるCX戦略の過程
CX戦略の1周目では、多くの企業がコンタクトセンターへの入電抑制を目的として、チャットボットの導入などテクノロジーの活用により工数を削減する「テックタッチ」の充実に力を注ぎました。
こうして電話やメール、FAQ、チャットボットなど顧客接点の種類を増やし、その手段の選択を顧客に委ねてきたわけですが、その結果、顧客は課題解決につながる最適な窓口にアクセスできているのでしょうか。さらには、それぞれの顧客接点は適切な役割を果たせているのでしょうか。
この問いに答えを出すために、CX戦略の2周目を進めるにあたっては「顧客接点・提供価値の再設計」に取り組んでいただきたいと思います。そして、顧客接点・提供価値の再設計では、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチという3階層の「タッチモデル」が役立ちますのであらためてご紹介します。
3階層のタッチモデルの定義
ここでは、タッチモデルの定義について整理して紹介します。
ハイタッチ
ハイタッチは、もっとも利益に貢献する顧客群へのアプローチで、パーソナライズされた1対1の顧客対応を基本とします。データ活用基盤に基づきターゲットを定め、ヒューマンタッチで顧客エンゲージメントを高める領域です。
目的としては下記2パターンが挙げられます。
- 大口顧客やロイヤルカスタマーのLTV(顧客生涯価値)をさらに高めるパターン
- 顧客の現状(カスタマージャーニーのタイミング)に応じて、顧客獲得・オンボーディング(契約直後の利用定着)・リテンション(離脱抑止)などを提供するパターン
コンタクトセンターにおいては、パターン①はロイヤル窓口などCX実践1周目での実績がありますが、パターン②は事例に乏しく、CX戦略2周目のチャレンジ領域といえます。
ロータッチ
ロータッチは、ハイタッチと次に説明するテックタッチの中間にあたる顧客群で、電話や有人チャットを用いた1対nの顧客接点です。1対nで誰にでも均質なサービスを提供することが重視されてきた従来のオペレーションは、ロータッチに分類されます。
テックタッチ
テックタッチも1対nの顧客接点ですが、n数はロータッチと比較して各段に大きくなります。チャットボット、音声ボット、Webによる対応など、テクノロジーを活用し、量への対応と顧客のエフォートレス体験を促すことを目指す領域です。
コンタクトセンターにおけるタッチモデルの実践
かつては、「すべての電話対応はAIに置き換わる」という言葉がささやかれたこともありました。しかし、実際にはすべての対応をAIで解決することは困難です。
実際にCX実践2周目においても、簡単な問い合わせはAIなどを活用したテックタッチで即時解決を目指しつつ、複雑な案件にはロータッチでの対応が残っていくことになります。ここでは、実際にタッチモデルを実践する方法を紹介します。
テックタッチの実践
テックタッチ(テクノロジーを活用した1対nの顧客接点)領域では、「予測的解決」を行っていくことが望まれます。予測的解決とは、顧客の痛点(期待はずれや不便なこと)を予測し、先回りして解決策を提示するやり方です。テックタッチ層の中にはサイレントカスタマーが圧倒的に多いため、このアプローチが有効です。
ロータッチの顧客応対で得た痛点の発生ポイントを構造化し、顧客行動やサービス利用状況に基づいて痛点が発生しそうな顧客層へテックタッチで先回りしたフォローを行います。こうすることで、サイレントカスタマーの痛点を解消し、静かな離反層を抑止することにつながります。
そのためには顧客データの活用が必須です。多くの属性情報を組み合わせることで顧客セグメントの精度を高め、よりパーソナライズされた情報を準備しておくことが鍵になります。
そういった意味でも、連載第2回で述べた「VOCを中心とする顧客情報活用基盤の強化」は重要といえます。
ハイタッチの実践
ハイタッチ(パーソナライズされた1対1の顧客対応)領域においても、「先回りの能動的なオファー」が求められるようになるでしょう。先回りの能動的なオファーとは、企業側から積極的に顧客と接する機会を作り、エンゲージメントを高めることでロイヤルティの向上につなげる施策のことです。この施策については、多くの企業が未着手ではないでしょうか。
もし、ハイタッチの効果測定が不十分な段階で投資判断を下さなければいけない場合は、テックタッチによって削減できたコストをハイタッチに投資し、コンタクトセンターへの投資は変えずにCXが高まる構図を計画することをお勧めします。
ロータッチの実践
ロータッチ(電話や有人チャットを用いた1対nの顧客接点)領域は、より複雑な問い合わせが入りやすいことから、電話・メール・チャット・Web等のチャネル間連携により問い合わせ内容の背景を把握することが重要になります。これを実現するには、単一のCRM(顧客関係管理)基盤だけではなく、データを組織横断的に統合・分析する仕組みが必要です。
SaaS型データ統合・分析ツールなどを用いることで、既存システムの改修は最小限にしつつ、他部門のデータを参照する仕組みが構築できます。分析可能な範囲やデータ活用の幅が広がります。
CXマネジメントの必要要件
実際にCX戦略2周目にしてタッチモデルを実践するためには、「人材育成」「チャネル設計」の再構築が必須です。
オペレーターの人材育成
CX戦略を2周目に進めるにあたり、3階層のタッチモデルをベースとして、オペレーターが担う役割も変化します。そのため育成方針、品質評価基準、マインドセットの変更が必要です。場合によっては採用要件から見直すケースも出てくるでしょう。
また、育成プロセスを構築する上で、顧客属性の分類や、ペルソナごとにスクリプトやトークシナリオなどのオペレーションを整備することが不可欠となります。容易なことではありませんが、ここをクリアできればコンタクトセンターがCX戦略2周目のアクセルになりうるでしょう。
チャネル設計
チャネル設計全体については、顧客の行動や状況によって企業側から最適な顧客接点に誘導していく視点が必要です。各チャネルを点で捉えるのではなく、全体像を描いたうえで総合的なチャネル連携を図り、CXが向上する状態に最適化していきます。
顧客への提供価値を見極めた線引きがカギ
今後、さらに顧客接点の種類は増えていきます。タッチモデルに基づいて線引きを行い、最適な顧客接点に誘導することでCX戦略2周目が成功に近づきます。
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