専門家コラム
2017年3月30日金融庁が公表した「顧客本位の業務運営に関する原則」、いわゆるFD(フィデューシャリー・デューティー)には、CXを実践していく、あるいは次世代のコンタクトセンターのあり方を検討する際に参考になるエッセンスが示されていると思います。
「顧客本位の業務運営に関する原則」/FD(フィデューシャリー・デューティー)とは何か?
「顧客本位の業務運営に関する原則」は、次の7つから構成されています。
①顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等
②顧客の最善の利益の追求
③利益相反の適切な管理
④手数料等の明確化
⑤重要な情報の分かりやすい提供
⑥顧客にふさわしいサービスの提供
⑦従業員に対する適切な動機づけの枠組み等
※金融庁「顧客本位の業務運営に関する原則」参照
7つの原則それぞれとても参考になる示唆があると思いますが、今回は『①顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等』と『⑤重要な情報の分かりやすい提供』について取り上げてみたいと思います。
顧客からのダイレクトな評価体系と改善PDCAの構築
『①顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等』において留意すべきポイントは次の3つだと思います。
●顧客本位の業務運営に関する方針を策定して公表すること
●方針に関わる取り組み状況を定期的に公表する
●方針は定期的に見直す
これらのポイントは、自社内での計画や目標設定に留まらず、お客さまに対してコミット(約束)し、言いっぱなしにせず、しっかりと活動に反映させる必要性があることが問われているのではないでしょうか。
私たちも「NPS(Net Promoter Score)」や「CS(Customer Satisfaction)」と言った指標を導入したいという相談をよく受けます。しかし、指標の導入が目的になってしまいスコアが “上がった、下がった” と言った一時的な議論になり、肝心な改善活動に繋がっていないケースが少なくないのが現状です。そこで私たちはこのような相談を受けた場合には主に次の3つの観点でディスカッションをさせていただいています。
1)指標を導入することの目的やゴールは何か?
2)その指標を構成する要素を網羅的に抽出し、改善すべき要素に優先順位づけをする(構造化する)必要性
3)そのための改善活動を継続的に推進できる体制をつくる
1)については、指標導入の目的やゴールは既存顧客の活性化(継続利用)と新規顧客獲得だと考えてよいと思います。2)に示した通り、それらを達成するためにはどのような要素を顧客に評価してもらうべきか網羅的に抽出する必要があります。ここまででは結局指標の導入が目的化してしまいますので、改善すべき要素は何なのか、統計的な手法を用いてこれら要素に優先順位をつけること(構造化すること)が重要です。また、3)に示したように、継続的な改善活動(PDCAサイクル)を推進していくためには、部門/機能横断的な推進体制をつくることをおススメします。このような取り組みは本来関連する各部門/機能の協力が必要であるにも関わらず、その協力が得られず主管部門が孤軍奮闘するという状況が今でも少なくないからです。
カスタマージャーニーマップの重要性
『⑤重要な情報の分かりやすい提供』の原則の中でのポイントは次の3つだと思います。
●顧客におススメしている商品・サービスを何故おススメしているのかの選定理由
●顧客のサービスに対するリテラシーを考慮して、明確で平易で誤解を招かない誠実な情報提供ができているか
●サービスの複雑さに合った(単純でリスクが低い場合には簡素な、そうでない場合には丁寧な)説明ができているか
しかし、分かりやすさを求め過ぎて多くの情報を提供しても本末転倒です。マーケティング用語の中に「選択肢過多」※というものがあるのをご存知でしょうか。
選択肢が多すぎると
①すべての可能性を比較検討ができない
②評価基準が曖昧になりやすい
③切り捨てないといけない選択肢が多いと精神的負荷が高くなる 等
の要因で選択することが難しくなり、結果として購買/利用意欲までもが低下してしまうと言われているそうです。
つまり、顧客は購買/利用プロセスで接触する情報を必ずしも上手に消化できているとは言えないという仮説があります。
※マーク・レッパー(スタンフォード大学)+シーナ・アイエンガー(コロンビア大学)による研究で24種類よりも6種類のジャムを陳列した方が購入率が顕著に高かったという研究結果がある。
参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=0EU8G3Goups
金融商品やサービスに限らず、様々な業界においてサービスが多様化していく中でメリットや利便性が向上する一方、サービスの成り立ちが分かりにくくなっている側面も否めないのではないでしょうか。そのような中でお客さまがどのような状況か(何が分かっていて、何が分からないのか、そして何を求めている/期待しているのか?)を知る必要があります。
そのことを知る方法として有効活用できるのは「カスタマージャーニーマップ」ではないかと考えます。マーケティングセクションだけではなく、コンタクトセンターに蓄積される声はもちろんのこと応対履歴として残しきれていない暗黙知を含め、コンタクトセンターのオペレータや管理者をジャーニーマップ策定に加えて見ていただきたい。普段の応対業務を通して顧客の「わからない」ポイントがわかっているケースが少なくないからです。必ずこれまで気付かなかった機会やリスクが発見できると思います。
最後に、今回は金融庁が公表した「原則」を例に取り上げましたが、「モノ」から「コト」の提供へとサービス全体が多様化していく中で、金融業界だけでなく様々な業界における「原則」としても考え方を整理するヒントになると考えます。
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