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専門家コラム


初回投稿日 : 2021/02/02

【モビルス×TMJ対談】2021年に向けたコミュニケーションデザインの在り方とは?<前編>

2020年は新型コロナウイルス感染拡大により、暮らし方や働き方など生活様式が大きく変化した年でした。それに伴い、企業も顧客とのコミュニケーションの在り方の見直しが必要となっています。特に、顧客サポートを担うコンタクトセンターではサービスレベルをどのように設定すべきか、BCPの観点、チャネルの最適化など多くの課題に直面しています。

「2021年に向けたコミュニケーションデザインの在り方とは?」をテーマに、顧客サポート業務のソリューションの開発・提供を行うモビルス株式会社 代表取締役社長 石井智宏氏と、コンタクトセンターやバックオフィスの設計、構築や運営などを行う、セコムグループの株式会社TMJ 営業統括本部 マーケティング推進本部 本部長 島田將英が対談を行いました。

顧客サポートを取り巻く環境の変化、ノンボイス・デジタル化の活用状況や成功事例、課題と解決策、今後の動向などについてディスカッションを行った模様を、前編・後編に分けてお届けします。

【パネリスト】

モビルス株式会社 代表取締役社長 石井智宏 氏
1998年 早稲田大学卒、2009年 ペンシルベニア大学ウォートンMBA取得。ソニー株式会社にて11年ラテンアメリカ市場におけるセールスマーケティングに従事。MBA取得後、国内投資ファンドにて執行役員。その後ソニー会長率いるクオンタムリープ株式会社のエグゼクティブパートナーとして多数の日本企業の海外進出を実行支援。2014年モビルスに参画。受託開発中心のビジネスから業態チェンジをし、主力製品「mobiAgent」や「mobiBot」「mobiVoice」などをリリース。企業のコンタクトセンターや自治体向けに製品の提供、導入支援を行っている。

株式会社TMJ 営業統括本部 マーケティング推進本部 本部長 島田將英
2000年にTMJ入社。営業部門、経営企画部門を経て、サイト運用・ネット広告運用等の新規事業立ち上げ・拡大を担当。以降、一貫してコンタクトセンターのデジタル化、業務プロセスの可視化・設計・自動化など、サービス基盤の構築とマーケティング活動を推進している。

【モデレータ】
株式会社TMJ 営業統括本部 マーケティング推進本部 プロジェクトマネージャー 川野克俊

2020年、顧客サポートへの戦略的な投資が増えた

モビルス株式会社 代表取締役社長 石井智宏 氏

川野:はじめに、それぞれの事業概要をご紹介ください。

石井氏:
モビルスは、「The SupportTech Compay」として、技術の力でサポート領域に変革を起こすことにチャレンジしている会社です。
主に「ノンボイス」と呼ばれる、チャットを使ったコミュニケーションのツールを開発・提供しています。メインのお客さまは、企業のコンタクトセンターや自治体の行政サービス窓口などです。
ツールの開発提供だけでなく、チャットボットのシナリオ作成・構築業務、チャットの導線や使い方などオペレーション設計のサポート業務など、「ホールプロダクトの提供」をコンセプトに一貫してサポートしています。

顧客サポートの領域は、人に頼っていた面が大きいです。営業時間を気にせずいつでも疑問を解決できたり、書面での提出が必要だった手続きをチャットボットで自動対応できるなど、業務の効率化や、問い合わせをするユーザーの利便性を高められる要素が、まだたくさんあると考え、「テクノロジーで顧客サポートを新しくする」をミッションに掲げ事業を行っています。

島田:
TMJは、セコムグループのBPO・ICT事業を担っています。BPO事業ではコンタクトセンターのアウトソーシングサービスが8割、・契約・登録新、請求業務などのアウトソーシングが2割の構成となっており、金融、情報通信、サービス業界と幅広くサービス提供しています。

2019年より新たなサービスコンセプト、“コンタクトデザイン”、“ワークデザイン”を打ち出し、顧客起点で業務をデザイン、また試行を重ね効果を高めていく業務手法の強化を進めています。

株式会社TMJ 島田將英

川野:
2020年を振り返って、顧客サポートを取り巻く環境はどのような変化があったでしょうか?

島田:
三つの変化があると思います。
一つは、「顧客サポートに戦略的な投資をする企業が増えてきていること」です。特に、クレジットカード業界では、CXの実践やデジタル活用は重要度の高いPJとして推進されている印象です。
顧客サポートへの投資額も大きく、コロナの環境下と相まって、CX実践の土台作りとデジタル化が着実に進んでいると感じています。

二つ目は、「インシデント対応時の顧客サポート重要性」への再認識です。広義ではコロナの感染拡大に伴う企業や行政の活動も含まれますね。そのほか不正ログインの対応などもあります。顧客サポートでは正確かつ迅速な対応が求められ、また期間中の量対応も必要となります。弊社では多くの社員がその応援に入り対応していますが、有人対応だけでなく自動化による効率向上の必要性を改めて感じました。

三つめは、「音声系のテクノロジー活用」です。
弊社の取り組みの中では、困りごとの抽出に音声認識を活用してVOCを全量把握したケースがありました。また、コンタクトセンター・アワード2020の受賞事例でも、音声認識とAIテキスト分類によりコールリーズンを抽出し、電話対応の履歴をテキスト化し管理・検証されたテーマがありましたが、テクノロジーを使っても最後は人の力で定着させることで、生産性を上げることが大事という受賞ポイントでした。
試行から定着のフェーズに移行していると感じています。

石井氏:
テクノロジー面でも、昨年は音声認識・音声合技術が、実証実験ではなく実用化できるようになった、大きな飛躍の年でした。APIが公開されているGoogleだけを見ても、ひと月単位で認識精度が上がっています。ようやく地に足のついた使い方ができるようになったのではないでしょうか。

「チャットボットはなんでも答えてくれる」のは幻想だったと理解され始めて、AIが注目される前にあったシナリオ型ボットの価値も再認識され、AIとシナリオ型の使い分けで、成果を出せる形で使われ始めました。

センターへの問い合わせ数の増加、問い合わせ手段の多様化が進む

川野:
少しエンドユーザーに目を向けて話を聞いていきたいと思います。生活様式の変化に応じて、顧客サポート、顧客コミュニケーションの対応も変化する必要があると思いますが、エンドユーザーの期待はどのように変化したとお考えでしょうか?

石井氏:
コンタクトセンターはコロナ禍で、「呼量の増加」と「出勤率の減少」のダブルパンチを受けました。モビルスが実施した消費者への調査結果でも、「コロナの影響で問合せをすることが増えた」、「問合せ手段が増えた」という声が上がりました。

▲モビルス株式会社「新型コロナウイルスの影響による消費者の企業や店舗・自治体などへの問い合わせ動向の実態調査」(2020年7月実施)
https://mobilus.co.jp/press-release/23322

在宅オペレーションに関しての調査では、企業が思うほど抵抗はないという結果がでています。
また、在宅オペレーション対応をする際に求めるこの上位は、「スピード」と「情報漏洩対策」がでした。企業が在宅オペレーション導入時のリスクとして懸念している「対応品質の低下」や「音漏れ」の問題は、そこまでシビアに考えられていないのではないかと感じました。

▲モビルス株式会社「新型コロナウイルスの影響による消費者の企業や店舗・自治体などへの問い合わせ動向の実態調査」(2020年7月実施)
https://mobilus.co.jp/press-release/23322

川野:
コロナ禍でカスタマーサポートに対するエンドユーザーの行動変化が認められますね。ところで、クライアント企業はこの変化をどのように捉えていると感じていますか?
また、変化を捉えているクライアント企業に対してサービス提供側としてどのような変化が求められていると思いますか?

島田:
顧客体験価値をどのように向上すればよいか、という視点での検討がより深まっていると感じています。一例として、あるクレジットカード会社では、バースディメールのシナリオひとつから、パーソナルに細かく立案と検証をしています。私たちは、よりエンドユーザー起点で、カスタマージャーニーマップに基づいた課題の抽出や、サイレントカスタマーのデータと突き合せた仮説×ファクトの改善提案が必要だと感じています。

石井氏:
島田さんがおっしゃるような顧客体験価値向上を目指しているクライアントがある一方で、コンタクトセンターのチャットボットやチャットシステムの導入目的は、ほとんどがコスト削減・業務効率化です。その中でも顧客目線の取り組みとして、弊社のお客さまで紹介したい事例が、ペット保険のアニコム損害保険株式会社(以下、アニコム損保)です。

アニコム損保では、LINE公式アカウントのコンテンツに、保険加入・保険金請求の手続きボット、獣医師にチャットで相談できる有人チャット「どうぶつホットライン」を搭載しています。保険金請求の業務の効率化を目的に始めた取り組みですが、最終的にはコミュニティとしての活用までに至っているのです。

▲アニコム損保の保険金請求チャットボットの画面イメージ。2週間かかっていた手続きが4分で完了。顧客の利便性向上と職員の業務効率化の両方を実現

保険金請求チャットボットだけだと顧客接点が限られますが、「どうぶつホットライン」でいつでも相談できるので、定期的にLINE公式アカウントを使うようになっています。その上で、「ペットと一緒にやりたいこと」を募集して一緒に叶える「wishリスト」という企画を行い、コミュニティとしての空気感をLINE上に作ることで、配信をしても受け入れられやすいのです。
保険会社なので事故率を下げることも重要課題です。夏の暑くなる時期に熱中症対策の情報を配信するなど、事故率を下げる訴求にも活用しています。

手続き系の自動化からコミュニティ要素、情報配信と、LINEにすべての要素を詰め込んだとても良い事例です。サポート・コミュニティー・マーケティングなどバラバラにやらず、一か所に集めることで効果が出たのだと考えています。

▲出典:https://www.anicom-sompo.co.jp/news/2018/news_0180522.html

2021年以降ノンボイス市場拡大の兆し

川野:
企業におけるノンボイス、デジタル化の進捗はいかがでしょうか?

石井氏:
コンタクトセンターのチャットボットやチャットシステムの導入目的は、ほとんどがコスト削減・業務効率化ですとお伝えしましたが、実は 浸透率はまだ低いです。全体呼量の3~5%ではないかと読んでいます。なぜ浸透しないのかを考えたときに、企業内でのコンタクトセンターの位置づけが「コストセンター」になっているからではないかと。組織上のマネジメントが、海外だと役員クラスに設定されていますが、日本は違います。
島田さんからもコンタクトセンターへの投資が増えてきたという話がありましたが、経営において、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が求められる中で、顧客体験の重要性にようやく意識が向いてきていると感じます。

また、コロナの影響でコンタクトセンターの役割が広がったという声もあります。営業時間縮小や休業で、店舗や窓口など対面でやってきたことをセンターで対応するなどです。ここからノンボイス市場は拡大していくと期待しています。

島田:
全体のお問い合わせに占める割合のデータはありませんが、クライアント企業向けの弊社アンケート調査では、「ノンボイスチャネルを活用している」「導入の予定がある」という回答は、全体の15%程度の結果で、同様に感じています。コスト削減が上位の目標にあり、プロセスの効率化やチャネルの最適化は、二の次となっています。顧客体験の重要性を提案するBPOベンダーとしては苦労しています。

サービス提供の変化に応じサポートの役割の進化も必要

川野:
ノンボイス化への思いはあるが、実装としては思った以上に進んでいない状況だと感じています。業界ごとの差異などはありますか?

石井氏:
モビルスのチャットシステム「mobiAgent」を導入いただく企業は、約250社あります。様々な業界で使っていただいてますが、強いて言うと金融系が多いです。席数、お問合せ業務の割合が多く、手続き系も多いことが背景にあると思います。
一方で、大きな制約もあります。個人情報に関わる問い合わせは、チャットシステムは入れていません。チャットはクラウド環境が主なので、電話のようにオンプレ環境やFISC対応をしにくい点が要因です。現状、チャット対応は一般的な問合せに限定しているので、問い合わせ全体の2割もありません。ポテンシャルは高いですが、導入ハードルも高いのが金融業界です。

ほかの業界での差異はありませんが、チャットシステムを導入いただくクライアントで、ノンボイスで全体呼量の6割をノンボイス対応できている事例もでています。ノンボイスで実際にコスト削減のインパクトを出せている事例があるので、自信をもって進められるようになりました。
ノンボイス活用を推進するためには、市場啓蒙することが必要です。他社も巻き込んで啓蒙活動を地道にやっていくしかないと思っています。

島田:
是非一緒に啓蒙活動をやっていきましょう。
ひとつの機会として、サービスの変革時かと感じています。TMJのクライアントであるベネッセコーポレーション様では、通信教育、塾事業を展開されています。デジタル、オンライン、教室のブレンデッド学習(対面とオンラインを効果的に組み合わせた授業形態)を進められていて、効果を出されています。私たちのコンタクトセンターには、オンライン化のサポートだけでなく、「先生」の部分を担う構想もいただいています。
サービス提供の変化にともない、コンタクトセンターもノンボイスを始めとしたデジタル活用など変化が必要です。サポートの中に機会発掘の機能を取り入れるなど、サービス提供の変化を上手く活用していかねばと考えています。

 


【モビルス×TMJ対談】後編では、企業と顧客がコミュニケーションにどう向き合うか、企業が顧客により良い体験を届けていくために、サポートにはどのような考え方や取り組みが求められるのかを、ノンボイス活用の成功事例や解決策のヒントとともにお届けします。

後編はこちら>>
【モビルス×TMJ対談】2021年に向けたコミュニケーションデザインの在り方とは?<後編>

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執筆者紹介

ビジネスのデザイン力で、事業の一翼を担うBPOパートナーのTMJ。将来にわたる経営環境に最適なビジネスプロセスを設計し、事業を代替することで、クライアント企業の継続的な事業成長を総合的にサポートしています。

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