専門家コラム
コンタクトセンター/事務処理センターの管理者であるスーパーバイザー(SV)は、センター運営の要であり、チームの生産性や品質を握るとても重要なポジションです。しかし、重要であるがゆえに多岐にわたる日々の業務や優先事項に追われ、コンタクトセンター管理者として個人の成長を促進する取り組みが後回しになりがちではないでしょうか。当社でも管理者育成には常に課題を感じながら、長年取り組んできました。
今回の記事では、コンタクトセンターにおける人材育成の課題を共有し、当社で実践している人材育成の仕組みやポイントについて2回にわけてご紹介します。
コンタクトセンターにおける管理者人材育成の難しさ
人材が流動化し、優秀な人材の確保が年々難しくなる中で、長期的な視点で自社内の人材を育成することが必要となっています。しかし、コンタクトセンター現場で指揮・監督の役割を担うSV(スーパーバイザー)、LSV(リードスーパーバイザー)の育成においては、BPO業界特有の難しさや壁に突き当たることがあります。
私たちが感じている課題は次の通りです。
優秀な管理者はどこにいる?
コンタクトセンター/事務処理センターなどのBPOの現場では、早期にセンターの収益化を図ることが強く求められています。また、BPOに限らず自社でセンターを運営されている場合でも、現場の管理者は、現場スタッフやオペレータを短期間に戦力化することが求められます。
センターの品質を左右するのは管理者であり、優秀な管理者がいれば品質向上や収益拡大につながりやすくなるのです。このため、管理者が自社内で不足している場合は、採用コストをかけてでも外部から優秀な人材を集めたいと考えるわけです。
しかし一方で、そのような優秀な人材は当然引く手あまたでなかなか見つからず、仮に見つかったとしても人手不足の環境下では膨大な採用コストがかかることもあり、BPOの場合、その採用コストが初期投資として重くのしかかり、収益化のハードルを上げることになったりします。
このような実情から導かれるひとつの答えは、センターを早期に立ち上げて安定的に運営するためには自社内の人材の離職を未然に防ぎ、働く一人ひとりの本人意向も考慮しながら活躍の幅を広げ役割を上げていくことが、会社にとっても本人にとっても望むべきことになる、ではないかと考えています。
内部登用で管理者にするための課題
コールセンターや事務処理センターでは、その業務特性から、オペレータは仕事の大部分で「指示通りに実行できる」ことが重視されています。しかし、現場スタッフやオペレータを管理者に昇格させる場合、それまで期待されていた真面目さや誠実さ、指示を受けて実行するというスタンスのままでは立ち行きません。受け身の立場から殻を破り、「自ら状況判断をして業務を遂行できる」ことが期待されるようになります。
指示通りに実行するだけでは、時に指示待ちという評価になってしまうため、現場から管理者を育てようとすると、意識的に自主性や主体性を身につけていく必要があると考えています。
管理者を育成する時間と余裕がない
管理者の人材育成は重要課題であるという共通認識はあるものの、コンタクトセンターの現場では、日々重要かつ緊急な対応に追われることが日常で、それ以外のことが予定通りに進むことはありません。
また、コンタクトセンターの人材育成といえば、より優先順位が高いのは、業績に直結する現場スタッフやオペレータの育成です。時間に追われて管理者の育成にまでなかなかたどり着けないという現場の声があります。
このような状況下で管理者育成を現場や担当者に任せきりにしていると、部署によって育成にバラつきが出てきたり、手っ取り早く外部の研修を受ければいいという思考に傾いたり、そもそも育成自体が疎かになってしまったり、ということが起こります。
実際に当社でも、社内の管理者人材がなかなか育たず採用しても離職していくという背景、課題を抱えていました。しかしこの構造から脱却するために、人手不足の環境でもしっかりと管理者を育成して組織を強化できる仕組みとして、TMJ独自の人材育成プログラム「PLATOS」(プラトス)が開発されることになりました。
繁忙でも管理者は育成できる。「PLATOS」という仕組み
TMJでは、2014年から経験学習をベースに独自に構築した人材育成プログラム「PLATOS」(プラトス)を導入しています。PLATOSとは、一言でいうと「仕事経験を通した一人ひとりの自己成長を組織で支援するしくみ」です。
ここではPLATOSの概要と具体的な手法、取り組みについてご紹介したいと思います。
PLATOSとは?人材育成の全体像
PLATOSとは、Planning(計画)、Training(研修)、OJT(On the job training)、Skill Check(スキル評価)の頭文字を取ったものです。TMJが強みとしているPDCAの改善文化を育成に適応したもので、仕事経験を通した一人ひとりの自己成長を組織で支援することを目指しています。
また、私たちTMJは、経営理念のビジョンとして、ともに働く仲間とのありたい姿に「with your style」を掲げています。誰もがいきいきと働ける環境を目指すには、風土の醸成がしっかりと継続されていることが重要です。
TMJで働くすべての人が、仕事経験を通して一人ひとりのなりたい姿を探し、目指し、いきいきと働き、その姿勢を尊重することを実現しないと、クライアント企業やその先のエンドユーザーにご支持いただきながら、会社を持続的に発展させることはできません。
PLATOSは、これらを実現するための基盤となる仕掛けともいえます。
PLATOSは人材育成の仕組みですが、評価制度と連携しています。期初に立てた目標設定の中で、自己成長につながるテーマと達成計画を立案し、自己成長シートというフォーマットで進捗を確認します。
向上心が高い人の中にはこのサイクルを一人で回せる方もいらっしゃいますが、多くの場合は、目の前の業務対応に追われ、経験を学びに変えることができずにいます。
そこで、自己成長を支援する仕組みとして、育成対象者にはOJT担当者をつけて、そのペアで月次を目安とした定期的な振り返りを行っています。
自分が求められている役割とスキルの基準を定めたスキル定義で、期初の目標設定や軌道修正を行います。そのプロセスは自己成長シートに進捗を更新していき、成長を実感しながら、期末評価時に「成長実績」として評価の加点項目とする、これがPLATOSの全体像です。
ポイント1:自己成長が評価される
PLATOSにおける人材育成の対象者は、SV、LSVなどの管理者層です。
最大の特徴としては、人材育成プログラムが評価制度と連携していることです。期初に立てた目標設定の中で、自己成長につながるテーマと達成計画を立案し、自己成長シートというフォーマットで進捗を確認します。そのプロセスは自己成長シートに進捗を更新していき、成長を確認しながら、期末評価時に「成長実績」として評価の加点項目としていきます。
ポイント2:仕事の品質に対する共通基準がある
PLATOSでは、TMJの現場管理者に求められるスキルをまとめたスキル定義書を作成し、活用しています。
スキル定義は、「管理者に求められる能力」をまとめた「カッツモデル」をベースに、PLATOSの育成対象層にあわせて体系化したもので、ヒューマンスキル、プランニングスキル、テクニカルスキルの3分野で、計65項目に分かれています。
また、スキルの難易度によってSV初級からLSV上級の6段階にレベルが区分され、育成対象者の期待役割に照らしあわせて、育成の目標設定の目安とされます。
このようなスキル評価における共通基準があることで、仕事のパフォーマンスに対して本人評価と上司評価が一致しない場合でも話し合う基準・モノサシになります。担当案件によっては特殊な専門知識や技能が評価されることもありますが、それだけに偏ることなく、共通基準に照らしてどこでも通用するスキルが身につけられているか、管理者としての評価を確認することが可能となっています。
ポイント3:成長の伴走・支援者がついてくれる
PLATOSでは、経験学習理論に基づき現場での関わりを重視するため、育成対象者には一人のOJT担当者がつくようになっています。
マネージャーがPLATOS運営方針を決定し、OJT担当者と育成対象者で育成計画とOJTを進めていきます。マネージャーとOJT担当者が育成にコミットすることで影響力のある育成体制を構築し、組織が持つ”育成の力”を最大限に発揮させる「育成文化」も醸成していきます。
ポイント4:業務時間を削らず、仕事の中で成長を図る
PLATOSを理解していただくために、人材育成の考え方で取り入れている「経験学習」という考え方についてご紹介します。
経験学習とは、仕事ができる人を長年調査してきた米国の研究所による調査結果に基づくもので、「仕事ができる人は、仕事経験を自己成長につなげて、変化への適応力を高め続けている」という知見をベースにしています。(出所:ロミンガー社)
調査結果によると、「成人における学びの70%は自分の仕事経験から、残り20%は他者の観察やアドバイスから、10%は本を読んだり研修を受けたりすることから得ている」といわれています。言い換えると、「いかに経験から学べるか?」が仕事ができる人とそうでない人の違いを作っているのです。
ただし、経験から学ぶのだからといって、ただ仕事を与えておけば成長するかというとそうではありません。仕事経験の後の内省(振り返り)の頻度と質が重要です。このことは経験学習理論でもよく説明されていることですが、当社でも3年ほど実践してみて実感することでした。
育成対象者の仕事の振り返りを上司であるマネージャーが手伝いながら本人の学びや成長につなげる手法は、1on1ミーティングとして実践していることで、前回のコラムでもご紹介しています。
【コラム】SV業務における経験学習
ここで経験学習をわかりやすくイメージしていただくために、SV業務に当てはめた具体例をご紹介したいと思います。
経験学習の学びとは、人は実際の経験を通し、それを振り返ることでより深く学べるという考え方で、「経験学習モデル」として、4段階の学習サイクルに整理されています。
その学習サイクルとは、まず具体的経験をすることからはじまり、次に経験を振り返り、変化や成長を見つける。そしてその振り返りから、教訓を引き出し、その教訓を生かして新しい状況に適用する、というものです。
これをSVの業務を例に見てみると、
1. マニュアルにない難しい問い合わせ対応をオペレータから引き取り、必死に対応して、なんとかお客様にご納得いただけた(具体的経験をする)
2. 「なぜ納得いただけたんだろう?」と振り返る(成長のための振り返り)
3. 振り返りの中から、自分なりのコツやセオリーを見つける(教訓を引き出す)
4. 次の機会にそのコツやセオリーを使ってみようと意識する(新しい状況に適用する)
そしてまた経験をするというサイクルです。
この4段階を繰り返しているうちに、これは他の人にも通じる考え方ややり方ではないかと思ったり、結果は出せているが果たして正しいやり方なのだろうかという疑問が出てきたり、また次の後輩のメンバーに教える際にどう教えたらいいのだろうかという課題感から基本を学んでみたいと考えるようになります。
研修受講や書籍などから知識習得をしようという意欲が生まれ、そこで学んだことを積極的に試す経験をすることで、またレベルアップした振り返りができるようになります。これが経験学習の学びであり、PLATOSの考え方です。
後編では、PLATOSの実施において力を入れてきたポイントや実施効果、今後の課題についてご紹介します。
後編はこちら>>
コンタクトセンター管理者を育成し続けるしくみ「PLATOS」<後編>
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