専門家コラム
人工知能が要求する膨大なデータ
人工知能の活用にあたり多くの企業を悩ませるのが、膨大なデータの収集です。一体どれくらいのデータが必要かというと、例えば、現在の人工知能ブームを巻き起こした論文では、120万枚の画像を1000個のカテゴリに分類したものを学習データとして利用しています。また、IBMのWatsonは数百万ものレポートや医学雑誌、患者記録を分析することで、適切な治療計画を提案しています。
このような例でなくても、人工知能で十分な精度を出すためには、数万~数十万という単位でのデータが必要とされています。
AIはデータ量が少ない学習に向かないから使えないのか
このように膨大なデータは集めるだけでも大変ですが、量だけでなく質が問題になることがあります。それは、目的となる事象の発生頻度が低く、まとまったデータが得られない場合です。
例えば、月間8000件の問い合わせのうち、月に数回だけ発生する難しい処理業務があるとします。多くの問い合わせにはマニュアルが用意され、頻繁に発生する業務なので多くのオペレータが覚えて対応できています。一方で、月に数回しか発生しない業務ではオペレータが経験を積む機会もなく、わざわざ覚えていることも少ないでしょう。そこで、こうした発生頻度の低い問い合わせを人工知能にサポートさせて、顧客満足の高い適切な回答を誰もができるようにならないかと考えます。
しかし、当然ながらそうした問い合わせは1年間データを貯め続けても数十件程度しか得られません。これでは、十分な回答精度を出すように人工知能を学習させることは難しいでしょう。こうしてすぐに使えるデータがないと、「うちでは人工知能は使えないのだろう」と結論付けてしまうことがありますが、本当に人工知能が使える場面はそこにしかないのでしょうか。
シンプルなFAQをロボットに学習させ、管理はしっかりと
実は、業務をよく見直して人工知能の使い方を工夫することで、今あるデータで生産効率を改善する仕組みが構築できる場合があります。先ほどの例で考えてみましょう。
「エスカレーションの必要がない」問い合わせをあえて学習させる
例えば、発生頻度が低く難しい問い合わせは、SVにエスカレーションする業務設計になっているとします。しかし、エスカレーションが必要かどうかの判断自体が新人オペレータには難しく、不必要なものもエスカレーションされてSVの工数を圧迫してしまうということがあります。
この工数を減らすために、人工知能に「エスカレーションの必要がある」問い合わせを学習させようとしても、データが少なく十分な精度が出ないため実際に利用できるものにはならないでしょう。しかし、発生頻度が高くオペレータが対応できている問い合わせであれば十分にデータがあります。つまり、「エスカレーションの必要がない」問い合わせであれば人工知能に学習させることができそうです。
さらに、回答可能なものであれば同時に回答例を表示する仕組みを組み合わせると、回答ができる問い合わせかどうかをどんなオペレータでも判断しやすくなり、結果としてエスカレーションの総数を大きく減らすことができます。
品質に対し、常に人のチェックが効いている状態を作り出す
また、オペレータは自分で回答ができない、あるいは回答できるとしても表示された回答例がおかしいと少しでも思ったら従来通りのエスカレーション対応ができることで、仮に人工知能が間違った回答を表示したとしても常に人のチェックが効いている状態を作り出すことができます。このように、品質についても一定のコントロールが効く状態を維持することも、見逃されがちですが人工知能を活用するためには重要なポイントになります。
現場で活きる人工知能の実践的な価値を創造する
人工知能を実際の現場で活用するためには、上手く運用と組み合わせた工夫が必要になってきます。
TMJでは、コールセンターと人工知能の両方を知るからこそ創出できる、こうした実践的な価値を提供し続けるために、これからも最新の技術の研究・開発を進めてまいります。
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