専門家コラム
多くの企業で実践されている「CX(顧客体験)向上の戦略」について、全6回の連載形式で推進方法を解説しています。連載4回目・5回目のテーマは、株式会社TMJがサービス提供しているA社での「社内外ナレッジの統合的な管理」についてです。その中でも5回目に当たる今回は、コンタクトセンターのナレッジ(内部ナレッジ)と無人サポート領域のナレッジ(外部ナレッジ)の改善サイクル、CX向上に取り組むスタッフのエンゲージメント(EX)の重要性について紹介しています。
(『月刊コールセンタージャパン』2022年3月号掲載記事を編集して掲載しています。)
問い合わせ前から始まる顧客のサポート体験
読者の皆さんは、コンタクトセンターの有人サポートだけが顧客のサポート体験ではないことをご存知のことと思います。ここで改めて、有人サポートだけでは見えない顧客の「エフォート(手間やストレス)」を整理すると、下記のようなことが挙げられます。
- WEBを見たが情報が見つからない
- FAQを見たがよくわからない
- 自分で解決できるのか、窓口に問い合わせないと解決できないのかわからない
- 電話がつながらないのでチャットで問い合わせた
有人サポートから見ると、「電話がかかってきた」「チャットにリクエストが入ってきた」という現象にしか見えませんが、実はその手前に顧客のストレスは多々存在しているのです。
従って、CXのリ・デザインにおいては、顧客サポート体験(サポートジャーニー)全体を意識したサポートの設計が不可欠です。応対品質を高めるためのコンタクトセンターのナレッジ(内部ナレッジ)と、サポートサイトの導線やFAQ、チャットボットといった無人サポート領域のナレッジ(外部ナレッジ)の2つを並行して改善していくことが重要になります。
顧客エフォートに着目したナレッジ改善サイクルを構築
では、顧客のストレスはどのように解消していけばよいのでしょうか?A社では、データ分析による緻密な問題抽出に加えて、VOCとVOE(オペレータの声)を活用。内外ナレッジの一元的な改善サイクルを運用することで、見えない顧客のストレスの解消に取り組んでいます。
図は、顧客エフォートに着目した内外ナレッジの改善サイクルです。NPSサーベイ(VOC)を起点に改善の対象と改善手法を選定した後、VOEやサポートサイトの利用状況(行動分析)を加えて具体的な施策を決定・実行。その効果をNPSと従業員満足度で検証しています。その活動による成果は以下の通りです。
内部ナレッジの改善
NPSサーベイで得たVOCの集計分析に基づき抽出した改善対象に対し、VOEを収集し顧客対応の現場ならではの意見や気づき、困りごとを定量的に優先順位付けして対策を実施。データドリブンな活動に現場のリアリティを加えて、改善活動の精度を高めています。
また、内部ナレッジの改善には、業務フローの改善による回答のスピードアップのほか、CRMシステムのユーザビリティの改善といった生産性を高める取り組みも含まれています。
外部ナレッジの改善
VOCの集計分析に基づき抽出した改善対象に対し、サポートサイトの利用状況(行動分析)を加えて分析。FAQやチャットボットといったセルフサポートのコンテンツ改善のほか、アクセスログやヒートマップなどの専門的な分析により、顧客のスムーズな情報検索や自己解決を実現しています。
また、有人サポートへ誘導する際には、NPS観点だけでなく応対コストも勘案して最適なチャネルを推奨し、改善効果を高めています。
VOCと行動分析とではデータ量に大きな差があることから、双方から抽出される課題と施策が合致しないケースがあります。そうした際は、各チームの管理者が密に連携し迅速な意思決定を行うことで対処しています。
他部門連携による改善
VOCの中には、コンタクトセンターだけでは対処の難しいケースもあります。例えば購入サイトのわかりにくさによる誤購入に関するコメントが多く発生した場合。問い合わせデータやSNS情報のほか、問題を放置した場合に起こり得る影響などを添えて根拠とし、所管する部門に対してCX向上の観点から改善の必要性を訴え、購入サイトの迅速な修正につなげました。
顧客の声や行動を定量化しながら部門間連携を促進することも、CX向上のためのポイントといえます。
CX向上に取り組むスタッフのエンゲージメントにも着目
現在A社では、さらなる進化に向けてCXとEXの統合マネジメントに取り組んでいます。CX向上を推進する中で、顧客と向き合うスタッフのエンゲージメント(EX)にも目を向ける必要があると考えたためです。ロジカルな改善活動の中に、従業員満足度を高める仕組みを組み込むことで、CXとEXを同時に高めています。EX向上のための施策としては、次の2つが挙げられます。
① 環境づくり
1つ目は、スタッフに主体的に参画してもらう環境を作ることです。前出の図の通り、内部ナレッジの改善にVOEを取り入れ、VOEをどのように活用したかをフィードバックする双方向的な取り組みにより、スタッフの1人ひとりがCX向上に貢献しているという意識付けを行っています。
② 満足度調査
2つ目は、従業員満足度調査の実施です。恒常的なブランドロイヤルティ向上を目指すサービス・プロフィット・チェーンの観点に基づき、EXについてもデータドリブンな改善を実現しています。
A社の取り組みを振り返って
このA社の取り組みは、CX推進の先行事例と言えます。しかし、考え方は非常にシンプルでわかりやすく、どの企業のコンタクトセンターであっても応用できるとTMJでは考えています。
TMJには、CX推進に関する豊富なノウハウが蓄積しています。デジタルツール・チャネルの活用だけでなく、企業の状況に合わせた改善活動の提案が可能です。お気軽にご相談ください。お問い合わせは< こちら >。
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