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BPOの基礎知識


初回投稿日 : 2020/08/14

働き方改革とは?働き方改革で変わる労務実務の7つのポイント

今、全世界が未曽有の危機に直面し、さまざまな外部環境が変化する中で、企業の内部構造についても大きな変革が迫られています。その1つの柱が「働き方の改革」です。これまで、働き方改革の総論には賛成であっても、雇用する側の個別の事情においては各論反対という傾向もみられました。今回は、働き方改革についてあらためて考えるために、その目的や背景に触れながら、正しい知識をわかりやすく解説していきます。

働き方改革とは

「働き方改革」とは、すべての働く人が、それぞれが抱える個別の事情に応じて不自由を感じることなく働ける環境を整備するための改革です。

社会のさまざまな領域で「ダイバーシティ(多様性)」という価値観が注目されています。あらかじめ決められた画一的なモデルに個々人が合わせるのではなく、それぞれの事情を柔軟に受け入れる社会と組織が求められているのです。政府が主導する働き方改革では、ダイバーシティという考え方を労働環境に適用するための具体的な指針を示しているといえます。この改革では、「働きすぎない」ことや事情に応じて働き方を「選択」できることが重視されます。あわせて、雇用形態で待遇に差をつけない「公正さ」を実現する措置などにもプライオリティが置かれているのです。

具体的な働き方改革は、その目的を推進するための多くの施策から構成されています。全体としては2つのポイントに要約することができます。

労働時間法制の見直し

ポイントの1つ目は「労働時間法制の見直し」です。

労働環境を考える際にまず注目すべき点は「ワーク・ライフ・バランス」であるといわれています。これは、仕事と生活のバランスがとれていて初めて、健康な社会生活が成り立つという考え方です。日本人はワーカホリック、働き過ぎといわれることがあります。1日は24時間しかないのに、働き過ぎれば家庭や地域などのコミュニティ形成に割り当てる時間がなくなっていきます。

これは、何のために仕事をしているのかという哲学的で倫理的な問題に直結してくるのです。勤労意欲は尊いものですが、何事もやりすぎはよくありません。戦後の日本はこのワーク・ライフ・バランスという意識が薄く、「ワーク」に偏りすぎていたと考えられます。そのため「ライフ」を軽視することになり、結果としてさまざまなレベルでのコミュニティが崩壊することになりました。そして、そのことが多くの社会問題の遠因になったといわれているのです。この状況を改めるために、法律的な側面から因習的な労働時間の考えかたを見直そうというわけです。

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

もう1つのポイントは「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」です。

総務省統計局の労働力調査によると、2019年平均の役員を除く雇用者数は約5,660万人となっています。そのうち、いわゆる正社員と呼ばれる無期雇用のフルタイム労働者としての「正規雇用者」数は前年より18万人増の約3,494万人です。一方で、パートタイム労働者、有期雇用労働者、さらに派遣労働者などの「非正規雇用者」数は45万人増の約2,165万人になりました。つまり、非正規雇用者は全雇用者数の約4割に迫る勢いで増加傾向にあるのです。しかしながら、この両者は同じ待遇ではありません。同じ組織の中で同じ仕事をしていても、さまざまな「不合理的な待遇の差」が存在するのです。

このような状況が生まれたのは、非正規労働という雇用形態が雇用者側の都合で整備されてきたという経緯に起因します。繁忙期に不足するマンパワーを効率的に埋めたいという需要があり、それに対応するために、人材を臨時に活用できる仕組みができたのです。雇用者にとって非常にフレキシブルな労働力供給の仕組みだったといえます。

ところが、組織内での非正規労働者の割合が増加し、待遇差の問題がクローズアップされるようになりました。そこで、働き方改革では、諸外国に倣い待遇を均衡にするための法的な規定が作られ、さらに、非正規労働者が自らの待遇について説明を求める権利も明文化されました。また、雇用者側に対しての情報提供や裁判を伴わない労使の紛争解決の仕組みも同時に整備されることになりました。

働き方改革の目的と背景

ここで改めて「働き方改革」の目的と背景を整理したいと思います。

「働き方改革」とは、日本企業の労働環境を時代に合わせて最適化していく試みのことです。日本政府が主導し、社会制度や法整備などが進められています。

目的を端的にいえば「一億総活躍社会」の実現です。日本の企業では主に成年男子を中心的な労働力とみなし、高度成長を遂げてきた歴史がありました。しかしながら、少子高齢化によって社会を構成する人口比率が変わり、これまで「労働力人口」として定義されてきた、生産活動にかかわることができる人の数が減ってきています。また、これまでの日本の労働環境に関する法制度は、先進諸国と比べるとどちらかといえば労働者の権利よりも企業の生産活動の継続性に目を向けてきたきらいがあります。

たとえば、中高年の転職に関して、日本の労働市場は人材の流動性が低いのではないかといわれています。活動的で経験値の高い労働者が増えてくれば、そのスキルを活かすために従来の定年制度も刷新する必要があるでしょう。新卒一括採用という習慣も日本の企業社会に特有のものといえるでしょう。また、指導管理的な役割に就いている人材の男女比を見ると、日本では女性が圧倒的に少ないこともよく知られています。これは、国会を始めとする公的な組織でも私的な企業でも同じ状況です。

このような労働市場の壁を乗り越えて、うまく組織に所属できたとしても問題が山積みです。まず、正社員と呼ばれる「正規労働者」とアルバイト・パートや派遣社員などの「非正規労働者」の格差が挙げられます。同じ仕事をしていても、賃金や労働環境に違いがあるのはおかしいのではないかという指摘がされてきました。次に、労働時間の長さも指摘されています。サービス残業は正規・非正規を問わず働く人の権利の侵害と考えられています。残業などで長時間労働することにより生じる過労死などは、日本的労働環境を象徴する言葉としてそのまま英単語になっているほどです。

日本企業の労働者が長時間労働しているからといって、生産性が伴っていないことも問題になっています。諸外国と比べて労働生産性が低いことが、長時間労働の原因ではないかという声もあります。つまり、今後も日本社会が安心・安全で豊かな環境を維持し続けるには、日本国民がそれぞれの立場で活躍できる労働環境が必要なのです。

この問題に取り組むのは、個別の組織や企業です。ただし、その際に背景や問題点を指摘して、大きな方向性を示すのは国家の役割といえます。そのような新しい働き方のガイドラインに沿って現状の労働環境を改善する試みが「働き方改革」なのです。

働き方改革で変わる7つのポイント

働き方改革によってこれまで古い習慣に縛られていた労働環境がドラスティックに変化しようとしています。ここでは、その特徴的な7つのポイントを確認してみましょう。

非正規雇用の待遇差改善

かつての高度成長期と比べると、日本の労働人口に占める正規雇用と非正規雇用の割合は激変しました。そしてこれまでの傾向から考えると、多くの組織で両者が同じような比率になるか、非正規雇用の割合が多くなる可能性があります。

さらに、人口減少による労働力不足を補うには、非正規雇用を増やす必要もあるのです。介護や子育て、加齢による体力の問題など、さまざまな事情からフルタイムで働くことが難しい人たちも貴重な人材とみなされます。そうなると、非正規雇用が少数派であったときのような待遇差は次第に受け入れられなくなるでしょう。

これを改善することは働き方改革の大きな目的のひとつです。待遇差が最も顕著に現れるのが「賃金」であるため、「同一労働同一賃金」が掲げられています。具体的には、正規と非正規の間の賃金格差を無くすための法整備や、非正規雇用から正規雇用へのキャリアアップの推進が目指されています。また、賃金自体の引き上げに言及されている点も重要です。労働人口の4割近くを占める非正規労働者の賃金が上がれば、消費が促進されてインフレ圧力が高まります。これは政府が掲げるデフレの解消にも有効と考えられています。

長時間労働の是正

諸外国と比べて日本の労働時間が長いことはよく知られています。さらに休暇の取りにくさも世界トップクラスでしょう。フランスでは、3週間の長期休暇取得が法律で義務付けられていて、多くの人達が長期のバカンスに出かけます。一方、日本の企業では法律で定められた年次有給休暇を取るにも、周囲の迷惑を考えて慎重に検討することも多いのが一般的でしょう。しかしこのような労働環境は、過去の労働観に基づいていることが指摘されています。高度成長期には働けば働くほど待遇が向上する右肩上がりの経済状況がありました。そこでは、全社員が一丸となって同じ方向に進むことが成長を約束すると考えられていたのです。

このような労働観からは、休むことは成長の足かせとみなされていました。しかし、いまや多様な働き方を受け入れるべき状況です。働き方改革では、このような状況を改善するために時間外労働の上限規制を導入しているのです。具体的には労使の合意によって、事実上残業時間を無制限に延長できる「特別条項」に制限が加えられます。さらに規制の実効性を担保するために、労働基準監督署の立入検査対象も増やしています。

柔軟な働き方ができる環境づくり

従来の仕事は「職場」で行われてきました。これは「職住分離」と呼ばれる、近代以降の機能的な街の作られ方の基本でした。しかし、この考え方では働く人が「通勤」して空間を移動し、また一定の時間を「職場で過ごす」ことが前提になっています。このように、決められた勤務場所と労働時間が仕事を得られる条件だったのです。逆にいえば、この条件に合わなければ、働く気持ちがあっても仕事が得られないわけです。

働き方改革では、このような状況を改善して、より柔軟な働き方ができる労働環境の構築を目指しています。その具体策として、職場以外で職務を遂行する「テレワーク」などの可能性が注目されています。テレワークによる業務は、自宅などで都合の良い時間に仕事ができるため、たとえば子育て中の女性や体の不自由な人であっても、就労機会を得ることができます。

一方で、労務管理という点からは問題がないわけではありません。従来のような、職場に拘束する時間を賃金算定の基礎にする考えかたでは、就労の実情を把握することは困難になります。また、労働者側にとっても、職場での就労よりも自律的な時間管理能力が求められるでしょう。このような理由から、新しい労務管理の考えかたが求められているのです。

ダイバーシティの推進

ダイバーシティとは多様性のことです。働き方改革では、従来から続く就労環境の対義語として使われます。従来からの家族観では、会社で働く正社員の夫と家庭を守る専業主婦による核家族が一般的とされてきました。このモデルでは働き手は成人男性が中心になってしまいます。このような因習的な役割分担を超えて、働く人が能力や希望に応じて自由に選択できる就労環境の構築をめざすことも働き方改革のポイントになっているのです。

たとえば、管理職の女性比率の低さの改善や、外国人労働者の受け入れなどに関しても、ダイバーシティの考え方が重要になるでしょう。一方で、多様な価値観の人たちを集めても、そのままではある目的に向かって協働することが難しい場合があります。そのため、お互いの差異を認めつつ相互理解を進めるための社会的な仕組みの構築が急がれています。

賃金引き上げと労働生産性向上

いくつかの労働条件の中でも「賃金」は最も大きな関心ごとの1つでしょう。働き方改革では労働者が受け取る賃金の引き上げを推進します。賃金が増えると、個人消費が拡大し、最終的に日本の経済環境を活性化する効果があると考えられているからです。

このとき、単に賃金の総額を増やせばよいのであれば、長時間労働という従来からある方法も考えられます。ただ、働き方改革で提唱されているのは、長時間労働を避けながら賃金額を向上させようとしている点が従来とは異なるのです。

ワーク・ライフ・バランスを満足させながら賃金額を向上させるためには、効率よく仕事をすればよいことになります。同じ作業を半分の時間で終わらせれば、時間あたりの賃金額は2倍になります。このような理由から、働き方改革では賃金の引き上げと労働生産性の向上がセットで推進されるのです。

再就職支援と人材育成

働き方改革では、政府が主導する働き方改革実現会議によってさまざまなテーマが論じられてきました。そのなかでも、再就職環境や人材の育成に関しても対策の重要性が指摘されています。なぜならば、従来の日本の企業では新卒一括採用と終身雇用制度が一般的であったため、再就職の際の労働市場が未成熟だったからです。

欧米諸国では転職はキャリアアップの手段として好意的な評価がされます。ところが、日本では正反対の評価となり、再就職支援の仕組みも充実していませんでした。ダイバーシティが社会の価値観に浸透してくるにつれて、そのような硬直した日本的労働観は薄れてきています。この流れを加速させることも働き方改革の重要なテーマの1つといえます。

人材育成に関しては、生産性の向上とも直結する重要な課題です。ある仕事を従来と同じクオリティーを保ちつつ、より短時間で完了するためには、仕事の仕組み全体を再構築する視点が不可欠です。このような創造的なアプローチができる人材の育成こそが、働き方改革を実現するための鍵になります。

ハラスメント防止対策

職場でのハラスメント対策は働き方改革の重要課題の1つです。

就労環境で起こるハラスメントには、職場の上席者が優位な立場を利用して部下に対して嫌がらせをするパワー・ハラスメント(パワハラ)があります。また、職場での性的な言動が精神的な苦痛を与えるセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)などもよく知られています。さらに、妊娠した女性に対しての嫌がらせや休業制度を故意に妨害するマタニティ・ハラスメント(マタハラ)も大きな問題です。

これらのなかでも、特にパワハラは、被害者の精神疾患を引き起こしたり、長時間労働や過労死につながるという指摘があります。そのため、実効性のある対策として「労働施策総合推進法」が制定されました。この法律によって、これまで法的な責任が不明確であったパワハラ行為について、事業主による対策の義務化が定められています。

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働き方改革導入の課題と最重要事項

最後に、働き方改革を導入する際に注意しておくべき最も重要な3つの課題について確認しましょう。

非正規社員・正社員の格差

正社員には、雇用側が決めた就労場所や就労時間帯を守る必要があります。これまで、就労意思があっても、その枠組に合わない場合は非正規社員になるしか選択肢がなかったのです。そして、その両者には賃金を含む待遇に大きな差があります。働き方改革では、「同一労働同一賃金」の実現のため、企業の就労環境に法的なメスを入れることで格差解消を目指しています。

労働人口不足

政府が「一億総活躍社会」という目標を示した背景には、総人口の減少するペースよりも、生産年齢人口の減少のほうが大きいという危機感があります。国際比較でも日本の生産年齢人口の減少率の大きさが指摘されているのです。この状況を改善するためには、就労を希望する人であれば、だれでものびのびと働ける社会の実現が望まれています。

長時間労働

長時間労働は、ワーク・ライフ・バランスを崩してしまうため、健康でいきいきとした生活の基盤を損ねる可能性があります。収入の向上のための手段としては、労働時間の長さではなく、生産性の向上に取り組むことが有効です。働き方改革ではそのための施策が用意されています。

働き方改革を前に企業として取り組みたいこと

働き方改革では、労働者の意識の向上にあわせて、雇用する側としての企業の意識のアップデートが求められています。まず、従来からの新卒一括採用、年功序列型賃金体系へのこだわりを捨て、ダイバーシティを企業理念の中核に加えて、社会に貢献する存在として、自社の社会的価値を再確認する作業が必要になります。働き方改革は、そのための明確なガイドラインを示しているのです。

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執筆者紹介

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