BPOの基礎知識
新人を即戦力として育てる効果的な教育手法として「OJT」を取り入れている企業が増えています。今回は、「OJT」の意味やOff-JTとの違い、導入のポイントやメリット・デメリットまで幅広く解説します。やり方次第では研修の成果が大きく向上する可能性があります。
OJTとは
OJTの定義
OJTとは「On-The-Job Training」の略称で、実際の業務に携わりながら仕事のやり方を学んでいく教育訓練の方法を指します。第一次世界大戦の際にアメリカの軍隊が取り入れた「4段階職業指導法」がOJTの前身といわれており、1980年頃には、日本の企業でも本格的にに導入されるようになりました。日本におけるOJTではPDCAサイクルが重視されており、時代の変化に合わせて少しずつ改良が進められてきました。現状、多くの企業がOJTによる指導をおこなっています。
OJTは、新人社員や中途社員などの新人を対象として実施されています。そのため、主に職場の上司や先輩が指導者となり、業務の流れやノウハウを直接教えていきます。指導者を限定しない場合もありますが、OJTトレーナーやOJTリーダーなどの担当を明確に割り振るケースも珍しくありません。OJTでは最初に目標を設定し、そのうえで業務に取り組みます。そして、一定期間ごとに評価をおこない、改善を繰り返していきます。OJTでは、日々の業務の中での指導だけでなく、面談や勉強会も実施します。
OJTの実施期間
新人を即戦力にすることが大きな目的とされていた研修ですので、以前は3カ月~半年の短い期間で設定されていました。しかし、最近は人材育成に重きを置く企業が増えており、入社から約1年間をOJT期間として定める企業が多いようです。
OFF -JTとの違い
Off-JTとは「Off the Job Training」の略称で、座学やディスカッションなどを通して、業務に必要な考え方や意識などを学ぶ教育手法を指します。アウトプットを主体とするOJTに対して、OFF-JTは研修やセミナーを活用したインプットが主体であることが大きな違いです。業務のタイプによっては、OJTだけではなくOff-JTも教育訓練として取り入れられています。
OJTのメリット
OJTは多くの企業が取り入れており、一定の効果が認められています。OJTを取り入れた場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
人事の業務コスト削減
OJT以外の方法で教育訓練をおこなう場合、基本的に人事が研修の場を設けます。具体的には、研修環境を準備したり、講師を依頼したり、カリキュラムを作成したりする手間がかかります。
一方、OJTであれば、改めて研修の場を設けることなく教育訓練を実施できます。講師は職場の上司や先輩が務めるので、専門の講師を手配するためのコストもかかりません。
時間の有効活用
普段の職場以外で改めて研修をおこなうとなると、まとまった時間を確保する必要があります。また、社員の成長に役立つ内容を盛り込もうとすると、研修には長い時間が必要となります。その一方で、企業としては短期間で即戦力となる人材を育てたいという想いがあります。
そこで、OJTを取り入れることで、貴重な時間を有効に活用できます。研修のために職場を離れなくても、実際の業務に携わりながら仕事を覚えることができるのです。
実務へのコミット
指導を受ける社員は早いタイミングで実際の業務に触れながら必要なことを学べるため、実践的な知識やノウハウを身につけやすくなります。近くに上司・先輩がいるので、すぐに質問ができるのもメリットです。
もちろん、OJTとして新人に実務を任せれば、勝手が分からないうちは時間がかかったり、ミスをしたりすることもあります。とはいえ、人手が不足している職場では、少しでも新人に業務を任せたいというニーズもあるのではないでしょうか。OJTなら現場のニーズに合わせて新人にも業務を割り振り、即戦力として育てることができます。
トレーナー(上司・先輩)の成長
新人を教育する経験を通して、業務への理解を深めたり、マネジメント力の向上につながったり、OJTはトレーナー側の従業員にとっても成長の機会です。新人を育てるために試行錯誤を重ねることで、普段の業務では得られない知識や能力の向上につながります。
部全体のコミュニケーション活性化
OJTでは、新人と上司・先輩が日々対話しPDCAサイクルを回しながら業務を遂行します。その過程で、新人は上司や先輩と関わって業務に当たる機会が少なからず発生します。新人一人が入っただけでも、部のコミュニケーションが活性化されます。
OJTのデメリットとそれぞれの解決策
ここでは、OJTのデメリットとその解決策について解説します。
体系的な教育には不向き
OJTは日々の業務を中心に教育を行うため、企業を広い視野で理解する機会が後回しになってしまう可能性があります。業務内容によっては企業全体の把握が必要な場合もあります。
解決策としては、OFF-JTのように講師がレクチャーを行う機会を最初に設けたり、共通の育成プログラムと資料を準備したりするとよいでしょう。
現場の教育コストがかかる
OJTは実際の職場の上司や先輩が新人の教育にあたるため、現場において教育コストがかかります。現場の社員が指導のための資料を用意したり、指導のために時間を割かなければならなくなったりするからです。指導者は自分自身の業務に加えて、OJTのために時間を割く必要があります。
OJTを取り入れれば、人事にとっては研修を実施するための費用や手間がかからないというメリットがありますが、現場の負担が増えるという点に注意が必要です。すべての業務にOJTが適しているとは限らないため、効果や負担のバランスを考慮したうえで適切に取り入れる必要があります。
適切な指導を受けられず新人が放置される
十分な説明なしに業務を見せているだけだと、OJT研修として満足のいく成果を得られない可能性があります。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響で、テレワークで研修を行う企業も増えてきました。非対面だと一日中業務を見学できない上に、ニュアンスや雰囲気で感じ取ることが難しくなります。伝えるべき内容は、新人が理解できるように言語化することを意識しましょう。
また、業務内容を資料にまとめておくことで、指導時に役立つだけでなく、新人が独り立ちしたときの手引きとして活用できます。
指導・育成効果のばらつきが出る
OJTは、現場の社員に新人の教育や指導を一任する教育方法です。そのため、現場の上司や先輩の能力によっては、OJTの効果にばらつきが出る可能性もあります。よって、OJTを成功させるためには、指導やアドバイスができる体制を構築する必要があります。
こういった点を考慮すれば、現場のOJTによる教育の成果を高めるには人事によるサポートも必要です。たとえば、指導者に対して研修を実施するのもひとつの手です。OJTの目的や効果的なやり方を伝えることで、指導者の意識が改善されます。さらに、可能であれば、OJTの成果を第三者が確認するフェーズを取り入れることでより効果的なOJTを実施することができます。OJTの成果を評価する仕組みがあれば、OJTの指導を受ける側だけでなく、指導をおこなう側の気も引き締まります。
OJT導入のポイント
OJTの指導体制を構築するには、どのようなことを意識したらいいのでしょうか。ここでは、OJTの指導体制を構築する際のポイントについてご紹介します。
OJTに向いている業務の棚卸し
教育訓練としてOJTを取り入れる場合、まずはOJTに向いている業務をピックアップするところから始めましょう。なぜなら、業務によってはOJTのメリットを活かしきれない場合もあるからです。
OJTに向いているのは、ある程度ルーティンが確立された業務があげられます。このような業務は、指導者も普段の業務に取り組みながら説明やフィードバックをおこないやすいでしょう。OJTのマニュアルを用意すれば同じ業務に携わる社員全員が指導者になれるので、一部の人に負担が偏るリスクも防げます。
反対に、プロジェクトごとに仕事の進め方が変わったり、突発的な案件がよく発生したりする業務はOJTに向いていません。個々の業務によって対応方法が変わるため、OJTだけでは仕事を進めるために必要な知識やノウハウを伝えきれない場合があります。そういった業務については、Off-JTのようなOJT以外の教育訓練も適宜取り入れたほうが効果的だといえます。
指導者への知識・スキル装着
OJTについて現場の指導者の認識が誤っている場合は、人事から細かく説明する必要があります。その場合、併せて注意点を伝えたり、指導方法について研修を行ったりしてサポートすることが大切です。
イメージのすり合わせをおこなう際、指導者の上司も交えるといいでしょう。OJTに初めて取り組む場合や指導者の経験が少ない場合などは、打ち合わせに上司を交えたほうがトレーナーに対するフォローがしやすくなります。
OJTの計画書を作成
伝え漏れを防いだり、進捗状況の確認をしたりするためにも計画書を作成します。下記、計画書を作成する際に必要な項目を挙げます。
- 新人とトレーナーについての情報:経験やスキルなど
- 実施期間と指導頻度:短期間で成果を出す必要があるのであれば指導頻度を多く設定
- 目標:装着させるべきスキルを明示
- 指導方法:トレーニングの品質のばらつきがなくなるよう、指導方法・注意点を明記
- 評価基準:それぞれの目標に対して具体的に明記
作成が完了したら、人事を含めた複数人が目を通し、計画の妥当性を確かめましょう。
ミーティングを行う際に計画書を活用することで、指導する側も受ける側も行動指針がはっきりとしてブレが少なくなります。研修過程で、重要なポイントとなる業務やレクチャーが完了した時点でお互いにコメントを残しておくと振り返り時に役立ちます。この計画に基づいてPDCAサイクルを回します。
PDCAサイクルの構築
実際にOJTをおこなうためには、PDCAサイクルの構築が必要不可欠です。PDCAサイクルとは、目的を達成するために、「計画(Plan)」「実行(Do)」「評価(Check)」「行動(Action)」を繰り返すことを指します。それぞれの段階ごとにチェックポイントを設けて計画書に明記し、指導者が確認できるようにしておきましょう。
1つ目の「計画(Plan)」では、OJTとして取り組む内容と目標を決めます。計画はOJTを進めるうえでの指針となるため、内容を分かりやすく明確に設定することがポイントとなります。たとえば、「ビジネスマナーを身につける」という内容に留めるのではなく、「職場にふさわしい言葉遣いができるようにし、お客様から好感を得られる態度をとる」といった内容まで落とし込みます。
2つ目の「実行(Do)」においては、計画に基づき、新人が実際に行動を起こします。ただし、最初に指導者がやってみせた上で、ポイントや注意点をきちんと説明する必要があります。指導者の伝え方が不十分であると、新人は正しいやり方が分からないままになり、成果につながりにくくなります。
3つ目の「評価(Check)」では、実行の様子や結果について反省します。まずは、「できたこと」と「できなかったこと」を分けて振り返りましょう。できたことについては、上司や先輩社員がきちんと褒めることで新人のやる気がアップします。できなかったことについては、その理由と改善方法を考えます。基本的には新人に考えさせますが、必要に応じて指導者がヒントを与えることで、より成果につながりやすい振り返りが実施できます。
4つ目の「行動(Action)」では、評価の内容をふまえ、できなかったことに対して改善方法を実行し、最初に立てた目標の達成を目指します。仮に、それでも達成できなかった場合は再び行動を見直し、できるまでこのサイクルを繰り返します。
まずは簡単な業務からPDCAサイクルを回し、達成状況に応じて少しずつ難易度の高い業務についても挑戦させていきます。スムーズにPDCAサイクルを回すためには、上司・先輩社員が事前に業務のポイントを確認したり、効果的な指導方法について理解したりしておかなければなりません。新人を放置することがないようにし、常に見守ることが重要です。
客観的な評価基準の設計
OJTに取り組む上では、客観的な評価基準も設計しておく必要があります。そのためには、人事がOJTの目的を明示する必要があります。OJTの評価基準について項目を挙げ、OJTを実施する部署の社員がOJTの目的や評価基準について理解している状態が望ましいです。
OJTの終了後にトレーナーの上司にアンケートを取り、OJTの取り組み方や成果について評価してもらうというのも効果的です。そうすることで、トレーナーの上司も、OJTに関わっているという意識が強くなり、日頃からOJTの様子に注目するようになります。状況が理解できていれば、直接レクチャーをする立場でなくても、サポートやフォローがしやすくなります。
さらに、トレーナーや研修を受講した新人にもアンケートをおこなうと、OJTの目的の達成度をより詳しく把握できたり、問題点を明らかにできたりします。回収したアンケートをもとに評価をフィードバックすれば、その後のOJTや人材育成にも役立てられます。
OJTで新人に即戦力を
必要な体制をきちんと構築できれば、業務に必要な知識やノウハウを新人へスムーズに伝えることができます。新人を即戦力として育て上げるためには、教育手法としてOJTを取り入れると効率的です。
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