BPOの基礎知識
「カスタマーサクセス」という言葉が、SaaS(※)業界を中心に聞かれるようになり、その概念は少しずつ広まっています。企業にカスタマーサクセスの概念を取り入れることで、企業価値を高めることができます。今回は、カスタマーサクセスの定義やカスタマーサポート・ヘルプデスクとの違い、導入のポイントなどを解説します。
※SaasS:「Software as a Service」の略称で、インターネット経由でソフトウェアを利用できるサービスを指します。従来のソフトウェアでは、パソコンなどの端末にソフトウェアをダウンロードする必要がありましたが、SaaSであればその必要がなくなり、より手軽にソフトウェアを利用できます。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、「顧客の成功」を意味し、顧客の成功を導くために、企業側が能動的に提供する業務のことを指します。つまり、顧客の方から企業側にアクセスをするのを待って、受け身でサービスを提供するという企業姿勢とは違い、顧客の成功体験をサポートするために、どのようなアクションを起こしたらよいかを考え、企業側から積極的に顧客に関わっていくのがカスタマーサクセスの基本的な考え方です。顧客がサービスを利用して成功体験を得られることで、企業側も企業の価値を高めることができるのです。
この考え方は、2000年代初頭にアメリカのセールスフォース社が提唱し、特にSaaSやインターネット関連の業界では概念として定着しつつあります。カスタマーサクセスを実現するための専門部門を設けている企業も多数あります。日本でも、サブスクリクション型(※後ほど解説します)のサービスが普及するのと同時に、2010年代後半から認知が進むようになりました。まずは、カスタマーサクセスと同じような意味で捉えられることの多い「カスタマーサポート」「ヘルプデスク」との違いについて、解説していきます。
カスタマーサポートとの違い
カスタマーサポートは、日本の企業の中にも従来からある役割です。企業が提供したサービスや商品に対して、顧客から直接問い合わせや問い合わせを受け付ける部門として開設されています。主に、コンタクトセンターやメールサポートなどの方法で、直接顧客に応えていきます。顧客から受けた疑問や問い合わせをもとに、商品開発を行ったりサービスを改善していったりすることはできますが、基本的に顧客側からアクションを起こすのが前提のため、企業側からアプローチをしていくことが目的ではありません。
顧客の問題解決に対する支援の方法としては必要不可欠ですが、受動的な方法といえます。カスタマーサポートでの対応は、個々の顧客の要望に応じて臨機応変に行われ、問題解決に迅速さが求められるのも特徴です。能動的に顧客にアプローチをするカスタマーサクセスという考え方とは逆の発想ですが、大切な役割を果たしています。
ヘルプデスクとの違い
ヘルプデスクとは、カスタマーサポートと似ていますが、特にシステム部門に多く開設され、技術的なトラブルを解決したり、障害対応を行ったりするのが役割です。カスタマーサポートが、サービスや商品の問い合わせに対応しているのに比べ、ヘルプデスクはどちらかというと技術サポートを主としていることが多いようです。企業によってはコンタクトセンターとヘルプデスクを兼務しているような場合もあります。いずれにしても、カスタマーサポート同様、顧客からのアクションがあって成立する役割だといえるでしょう。
カスタマーサクセスが注目される背景
近年カスタマーサクセスの概念が注目されるようになってきたのは、どのような背景や理由があるのでしょうか。
サブスクリプション型サービスの普及
一つは、インターネット上でのサービスが増えるなかで、ビジネスモデルも大きく転換してきたことが理由として考えられます。特に、カスタマーサクセスが広まった理由には、サブスクリプション型のサービスが普及してきたことが大きいでしょう。
サブスクリプション型のサービスは、利用者が一回物を買って終わり、というビジネスモデルとは違い、サービスの利用期間に応じて利用料を支払うサービスモデルです。顧客は、月々定額の料金を支払って、期間中サービスを好きなだけ利用することができ、そのサービスが気に入らなければいつでも解約することができます。つまり、従来のビジネスでは「買ってもらう」ことがゴールだったのに対し、サブスクリプションモデルは「契約した後に継続してもらう」ことがビジネスの目的となるのです。そのため、購入につなげるための活動だけでなく、顧客がサービスを継続していくために、どのようにモチベーションを維持してもらうかという点でのサポートが必須となってきます。
SNSの普及
また、インターネットの中でもSNSが普及し、顧客がサービスを使って得られた満足度や成功体験は、SNSへとシェアされ、その評判が拡散されることによってサービスの売上につながることが増えてきました。顧客の満足度が、従来以上に売上に大きな影響を与えることになります。顧客満足度を高めるためには、従来の受動型のカスタマーサービスではフォローしきれない新たな積極的な働きかけも必要になっています。
そこで、注目されるのが「カスタマーサクセス」という考え方です。カスタマーサクセスは、企業の側から顧客へアプローチする能動的な方法です。顧客のニーズをつかんで常にフォローし、継続のモチベーションとなるような情報やサービスを先回りして提供することによって、顧客の満足度、成功体験を維持するのが目的です。
カスタマーサクセス導入のメリット
カスタマーサクセスは、定期利用型のサブスクリプション型のサービスにおいて、顧客のモチベーションを維持し、フォローするためには重要だと考えられます。それでは、カスタマーサクセスを導入することによって、得られるメリットは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、メリットを3つに絞って解説していきます。
解約率の低下
サブスクリプション型のサービスにおいては、顧客がサービスを契約した後、どれだけ利用を継続してくれるかが重要です。サブスクリプション型は、安定的な収益が望める半面、顧客のモチベーションが下がるとすぐに解約されてしまうリスクがあります。解約率が高いと、安定的な収益を見込むことが難しくなります。定額制で使い放題のサブスクリプション型サービスの場合、契約してしばらく経つと、顧客がサービスに飽きてしまったり、他サービスに乗り換えたりするリスクがあります。これは、顧客がそのサービスを使った時の成功体験を十分に感じられていないことが理由に考えられます。そのリスクを防ぐことができるのが、適切なカスタマーサクセスの導入です。
具体的には、顧客の利用履歴に基づくレコメンド機能(おすすめ機能)や定期的なフォローアップ、ニーズに合った追加サービスなどの情報提供が挙げられます。この企業側からの積極的なアプローチによって、受動型のカスタマーサービスだけでは実現できない顧客のフォローを行い、解約率を低下させることが可能です。
LTVの向上
LTVとは「Life Time Value」の略称で、顧客生涯価値と呼ばれる指標を指し、一人の顧客から生涯で得られる利益の合計を表します。つまり、一人がサービスを長期間にわたって利用継続したり、オプションサービスなどを追加購入したりすると、LTVの値が向上します。このLTVの値は、特にサブスクリクション型のサービスでは重視される指標で、カスタマーサクセスを導入することによって向上させることができます。顧客の興味やニーズを見極め、そこに合わせた適切なアプローチを企業側が積極的におこなっていくことによって、顧客がサービスを継続したり、さらにオプションを購入したりといった行動につなげていくことができるからです。
新規の顧客を獲得するにはコストがかかりますが、既存の顧客に継続してもらうことは、新規顧客獲得よりも低コストです。そのため、LTVが向上すれば、コストも抑えることができます。また、LTVが高いということは、顧客がサービスを継続するモチベーションが高いと分析することができ、顧客の満足度も測ることができます。
製品・サービス改善のためのフィードバック獲得
カスタマーサクセスは、企業側から顧客にアプローチをする手法ですが、決して一方通行のアプローチではなく、顧客からのフィードバックも受けることができます。顧客からのフィードバックによって、企業側では気付くことのできなかった製品やサービスに対する問題点や改善点を知ることができ、製品やサービスの改善に役立てることができるのです。
顧客側は、直接サービスのフィードバックを伝えることで、製品やサービスが改善して利用しやすくなり、さらに満足度の高い商品やサービスを享受できる可能性が高まります。双方向のコミュニケーションで、フィードバックと改善のPDCAサイクルを回すことによって、顧客にも企業にもメリットが得られるでしょう。
カスタマーサクセスを成功させるポイント
カスタマーサクセスの導入のメリットを見てきましたが、導入したらすぐに成功するというわけではありません。ここでは、カスタマーサクセスを成功させる2つのポイントについて詳しく解説します。
オンボーディングに注力
カスタマーサクセスにおける「オンボーディング」とは、サービスを使い始めて間もない顧客に利用方法を案内し理解を促すプロセスです。最初に基本操作や利用方法を案内することで、サービス運用のストレスが低下し、顧客満足度が向上します。その結果、サービスの継続利用が促進され、解約の防止、さらには顧客単価の引き上げにつながります
ロイヤルカスタマーの見極め
ロイヤルカスタマーとは、企業のサービスやコンセプトに共感し、他の企業に目移りすることなく継続してくれるとともに、時には有益なフィードバックをくれる顧客のことを指します。また、長期間継続して自社サービスを購入してくれることで、LTV値が高い顧客であるともいえます。企業やサービスのファンとなって、長い期間にわたって企業に付き合ってくれる顧客は、とても重要です。ロイヤルカスタマーを通して、企業の製品やサービスが周囲の方々に紹介されたり、SNSなどでシェアして拡散されたりすることでより企業の価値を高めることもできます。
そのため、利用金額やLTVといった数値だけにとらわれず、ロイヤルカスタマーを大切にすることが必要です。一時的に購入額の高い顧客は、セール時や特別な時期だけの顧客である可能性もあります。ロイヤルカスタマーを見極め、育成していくことが、カスタマーサクセスを成功させ、企業の長期的な成長につながります。カスタマーサクセスの利点である双方向のコミュニケーションを丁寧に行うことによって、ロイヤルカスタマーを見極め、育成していくことができるでしょう。
ニーズの見極め
カスタマーサクセスを導入すると、顧客の要望を直接受け取ることができるため、顧客からの様々なニーズにふれることになります。顧客のニーズに応じて製品やサービスを改善したり、新サービスを開発したりしていくことは重要なことですが、全てのニーズに応えることは難しく、全てのニーズがサービスの改善につながるとは限りません。
一部の顧客の意見だけを取り入れることで、かえって全体のニーズからは外れてしまうこともあります。顧客のニーズが本当に開発や改善に役立つのか、改善した後の利用度はどのくらい改善されるか、という点を常に見極める必要があります。顧客のニーズに応えることは大切ですが、製品やサービスの開発、改善にあたっては、慎重な判断が求められます。やみくもに改善するだけではなく、費用対効果を考えた適切な判断が必要だといえます。ニーズの見極めをしっかり行うことができれば、顧客の満足度も上がり、新たな顧客をつかむことや、利用額をアップさせることも可能です。
カスタマーサクセス力を高めて企業価値を高めるために
カスタマーサクセスの考え方を学び、導入することで、今までの業務ではフォローできなかった顧客へのアプローチが可能となります。カスタマーサクセス力が高まれば、顧客の満足度を上げることができ、企業価値を高めていくことができます。そのためには、考え方や導入のポイントを見極め、有効に活用することが大切です。より良い企業活動の一助に、カスタマーサクセスを取り入れてみてはいかがでしょうか。
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